目で味わう、鉄道趣味 – 駅弁掛紙の旅

鉄道による旅行には、さまざまな楽しみ方があります。

その中で、ご当地の名産品を活かした「駅弁」を楽しむというのは、とりわけ旅行に長い時間のかかった昔はポピュラーなものでした。

そんな駅弁を、中身ではなく外側のラベル、掛け紙に注目して楽しむという本を見つけました。

 

とりわけ、日本に鉄道が誕生した明治から大正、昭和初期の掛紙がすばらしい。

駅周辺の名所旧跡をあしらった図案、手描きの文字は、現代のパッケージデザインとはまた違った楽しみがあります。

 

当然ながら、いまはもう駅や駅弁屋自体がなくなってしまい、実物を手にすることは難しいものがほとんど。

けれど、復刻デザインという形で、今に残っているものがあります。

そのひとつが、山陽本線宮島駅(現・宮島口駅)にて100年以上販売されている上野商店の「あなごめし」です。

あなごめし うえの | ホームページ

創業明治34年「駅弁あなごめし うえの」のホームページでございます。あなごめし弁当をつくって百十余年、美味しい穴子をご提供するために努力しております。宮島口に本店、広島三越にはイートインがございます。

世界文化遺産・厳島神社を擁する宮島近海で取れた穴子をふんだんに使った地元料理の「あなごどんぶり」を、初代当主の工夫により駅弁として売り出したのがはじまりだそう。

現在は、過去に使われた12種類の掛紙を復刻し、ランダムに使われているとのこと。

 

ではここで、わたしが宮島を訪れた際の掛紙を紹介…というのが広島偏愛シリーズとしてベストな展開なのですが、残念なことに、写真アルバムをひっくり返してみても、このお店で買ったあなごめしは見つからず。

とはいえ、ほかのお店のあなごめしを見つけたので、そちらをご覧ください。このブログにはめずらしい、食べ物の写真ですよ(笑)。

どのお店もそれぞれの味を楽しめると思いますが、せっかくなので、次に宮島を訪れた際には、復刻掛け紙といっしょに上野商店のあなご飯を味わうのも良いですね。

 

 

藤森照信展 – 自然を生かした建築と路上観察

まちなかのあらゆるものを観察の対象とする「路上観察学会」。

赤瀬川原平さんとともに路上観察学会の発起人となった一人に、建築家の藤森照信さんがいます。

その藤森さんの手がけた建築と、路上観察学の成果が同時に楽しめる特別展が、茨城県・水戸芸術館で2017年5月14日(日)まで開催されています。

水戸芸術館|美術|藤森照信展―自然を生かした建築と路上観察

1946年生まれの藤森照信は、高校卒業まで長野県茅野市で過ごし、東北大学、東京大学大学院に進学。近代建築史・都市史研究の第一人者として多くの業績を残したのち、45歳で神長官守矢史料館(長野県茅野市、1991年)を設計、建築家としてデビュー。以後、約25年のあいだに40余の独創的な建築作品を創り続けてきました。 …

 

最寄りの水戸駅へは東京駅、または上野駅から特急で一時間ちょっと。

駅北口のバスターミナルから出ているバスを使う場合、「泉町一丁目」で下車して北に向かいます。

周囲から浮き上がるように、特徴的な多面体の塔が現れるので、まず道に迷うことはないでしょう。

 

近付くとカメラのフレームに収めきれません。

 

展示は塔ではなく、奥の現代美術ギャラリーで行われています。エントランスホールで、入館料800円を支払います。

 

館内は10のスペースにわかれ、ジャンルごとに藤森さんの活動が紹介されていきます。

屋根にニラを植えた赤瀬川邸「ニラハウス」、粘土山を思わせる多治見市モザイクタイルミュージアムなど、人工物でありながら有機的なイメージを感じさせる藤森建築。

中でも印象的だったのは、和菓子で有名な「たねや」グループ本社に併設された「ラ コリーナ近江八幡」。

ラ コリーナ近江八幡 | たねや

周囲の水郷や緑を活かした美しい原風景の中での、人と自然がふれあう空間づくり。和・洋菓子を総合した店舗および飲食施設や各専門ショップ、農園、本社施設、従業員対象の保育施設などを設けるたねやグループの新たな拠点です。

 

 

春夏秋冬、まるで違った表情を見せる空間は、手つかずの自然とも、都会の建築とも違うもの。

たねやのお菓子も出張販売していましたが、さすがに名古屋から水戸に行って近江(滋賀)のお土産を買うのもわけがわからないのでやめました(笑)。

いずれぜひ現地に行ってみたくなったので、そのときまでお楽しみにとっておきます。

 

そして展示のラストは言わずもがな、路上観察学会。

学会員のナレーションつきで歴代の名作を一点ずつ紹介していくスライドショーは図録の付属DVDにしてほしいほど。(公式図録は未発売)

今回は、会期中に開催されたワークショップで生まれた作品も「街なか展示」として市内の各地で見ることができます。

せっかくなので、帰りはその展示場を中心に、プチ路上観察をしてみました。

 

芸術館の近くから水戸駅近くまで伸びているアーケード。親子連れのピクトさんがかわいい。

地面に視線を落とすと、その屋根が正弦波(サインカーブ)を映し出しています。

なかなか危険なパイロン。どうしてずらして置いておくのか。

 

定番のマンホールは、やはりご当地・偕楽園をイメージした梅のデザイン。背景が赤色のものもきれいですね。

こちらは公式キャラクターのみとちゃん。この頭はねばねばしそう…。

 

梅の季節は過ぎていましたが、桜は折しも見頃。

茨城県三の丸庁舎。近代建築らしい威容を誇ります。

1Fの街なか展示は休日でも見ることが可能です。

 

駅北口までもどってきました。やけに下車を推す貼り紙。ちょっとテトリスっぽい。

 

ということで、水戸のまちあるきも楽しみつつの藤森照信展でした。

 

しかし、やはり水戸は遠い…。

そんな想いをお持ちの、とくに西日本にお住まいの方に朗報です。

こちらの展示、2017年9月29日(金)から広島市現代美術館での巡回が決定しています。

藤森照信展 自然を生かした建築と路上観察 | 広島市現代美術館

公立では全国初の現代美術を専門に扱う美術館として、現代美術の作品を収集、紹介している広島市現代美術館のウェブサイトです。

 

広島市現代美術館も市街から少し離れた山あいにあり、黒川紀章設計の建築と自然が同時に楽しめておすすめです。

藤森照信展の前には世界平和記念聖堂を設計した「村野藤吾の建築」展もありますよ!

と、思わず最後は広島偏愛シリーズになってしまったことをお詫びします。

 

 

いつもの路の向こう側

多くの人には、通学や通勤などで、毎日きまって歩く路があります。

 

こどものころからふしぎだったのは、なぜ通学路がひととおりに決まっているのかということ。

自宅から学校までの間には、いくつもの交差点、いくつもの分かれ道があります。

事故や事件に遭わないように、危険な路を避けるために、通学路は決められているのだといっても。

少し離れたところに住む友達には、その子の通学路があって。

たまには自分も、違う路を選びたくなってしまいます。

 

一本違う通りを歩くだけで、そこには、見慣れたものとは違う景色がひろがっています。

いまにして思えば、それは路上観察学へと続く道の、第一歩だったのかもしれません。

 

社会人になっても、それは同じ。

違う路を歩いたからといって、誰かに怒られることはないけれど、列車で通勤する場合、定期券のルートを決める必要があります。

たいていの場合、定期で指定できる経路はひととおり。それも行きと帰りで別々の経路を指定することはできません。

けれど、それほど急ぐ必要もないとき、あるいは休日のときなどは、違う路を選んでみてもいいのでは。

 

鉄道が好きな人なら、路線図を眺めながら、どのような経路をたどって目的地に向かうかを考えるのも、楽しみ方のひとつ。

関西では、京阪神を結ぶのにJRのほか阪神、阪急、近鉄、京阪と多くの私鉄があり、それぞれに独特の沿線風景があると言われます。

 

名古屋なら、JRと名鉄、地下鉄。

広島なら、JRと広電、アストラムライン。

窓の外の風景だけでなく、駅の構造、車内広告、乗客の様子など、あらゆるものを観察することで、いままでにない発見があることでしょう。

 

いつもの路の向こう側に足を踏み出すことで、新しい世界が見えてきます。

 

日本の伝統をロゴで味わう – Typography 10

年二回刊行される、文字をテーマにした雑誌「Typography」。

10冊目となる2016年11月号の特集は「日本語のロゴとタイトル」でした。

 

日本最初に紹介されているのは、室町時代の京都から続く老舗の和菓子屋、とらや。

とらやの和菓子|株式会社 虎屋

室町時代後期、京都で創業した和菓子屋「とらや」のオンラインショップです。「とらや」を代表する羊羹や季節の生菓子の情報、和菓子にまつわる歴史・文化、店舗の情報、イベントのお知らせなどを随時更新しております。

和菓子と言えば、単なる食べ物としてだけでなく、色、形、パッケージといったトータルデザインで手に取る人を楽しませてくれる、まさに小宇宙。

そのロゴデザインに着目して味わうことができる、今回の特集。

小形羊羹 5本入 | 箱入・詰合せ | とらやの和菓子|株式会社 虎屋

室町時代後期、京都で創業した和菓子屋「とらや」のオンラインショップです。「とらや」を代表する羊羹や季節の生菓子の情報、和菓子にまつわる歴史・文化、店舗の情報、イベントのお知らせなどを随時更新しております。

小形羊羹「夜の梅」「おもかげ」「新緑」「はちみつ」「紅茶」…筆文字がよく似合う、このネーミングだけで心が躍ります。

和菓子の名前のことを菓銘というのだということを、はじめて知りました。

 

小形羊羹 | 歴史 | とらやの和菓子|株式会社 虎屋

室町時代後期、京都で創業した和菓子屋「とらや」のオンラインショップです。「とらや」を代表する羊羹や季節の生菓子の情報、和菓子にまつわる歴史・文化、店舗の情報、イベントのお知らせなどを随時更新しております。

とらやの公式ページを見ていたら、昔のパッケージも見つけました。ウエストがスリムな「羊」、このロゴも素敵ですね。

 

その他にも、本誌では様々なデザイナーの手がけたロゴが紹介されています。

美術館の特別展ポスターなど、なかなかデザイナーの名前が出ることは少ないので、作り手ごとの作品集として見られるのは嬉しいですね。

とくに気になったのが、野村デザイン制作室の野村勝久さん。

野村デザイン制作室

山口県にデザイン事務所を構えています。広告や美術館のグラフィックデザインなどをしています。

作品の一部はこちら。

特別展 超絶技巧!明治工芸の粋 ─これぞ、明治のクールジャパン!! – 山口県立美術館

特別展 超絶技巧!明治工芸の粋 ─これぞ、明治のクールジャパン!! 2015年2月21日(土)〜4月12日(日) 山口県立美術館にて開催。

コレクション特別企画 雪舟と雲谷派 テーマでくらべる – 山口県立美術館

コレクション特別企画 雪舟と雲谷派 テーマでくらべる 2014年10月30日(木)~2014年11月30日(日) 山口県立美術館にて開催。

「ロイヤル・アカデミー展 イギリス美術の華麗なる150年」|静岡市美術館

No Description

 

明治・大正期のロゴの雰囲気を感じさせつつ、現代的なフォントを組み合わせても違和感がありません。

山口県で活動されていて、山口県立美術館や広島市現代美術館のポスターやカタログも多数制作されているそう。

思わぬところで広島偏愛シリーズとのつながりを感じて、勝手に嬉しくなりました(笑)。

ライフ=ワーク – 広島市現代美術館

「ライフ=ワーク」展では、広島の被爆者たちがその体験をもとに描いた「原爆の絵」(広島平和記念資料館蔵)を出発点に、自身の体験、生活、人生が色濃く反映する13作家の表現をあわせて紹介します。

 

この世界に生きる、すべての人へ – 映画「この世界の片隅に」

以前も紹介した、こうの史代さんの漫画を原作とするアニメーション映画「この世界の片隅に」が公開されました。

11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト

監督:片渕須直、原作:こうの史代、音楽:コトリンゴ、制作:MAPPA 声の出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 / 澁谷天外 ほか。11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」の公式サイトです。日本中の思いが結集! 100年先も伝えたい、珠玉のアニメーション

昭和19年から20年。広島から呉に嫁いだ少女、すずの視点で描かれる世界。

それは、まるで超細密なモザイク画、あるいはジグソーパズルのよう。

戦時中の日本を舞台にしていながら、戦争を前面に出したテーマとはしていない、日常の物語。

だからこそ、一面的でない視点から、戦争に向き合っているともいえます。

 

にぎわいを見せる、広島市中島新町(現在の平和記念公園)。

軍港としての呉。

空襲を受ける瀬戸内海。

 

個人的に偏愛する広島の、何度足を運んでも、もう見られない風景がそこに広がっていました。

 

そして、この世界をジグソーパズルと形容した理由は、すべてのピースに意味がある、細やかな描写まで伏線が張りめぐらされているということ。

それでも、物語は基本的にすずさんの視点で進んでいくので、細かい説明などは入りません。

もともと原作が大好きで、映画の公開前に呉市立美術館で開催されていた原画展にも足を運んだので、それぞれのシーンに込められた意味を思い、もう序盤から泣きそうになってしまったり。

思わず館内のあちこちで笑い声が漏れるほど楽しいシーンもいっぱいあるので、ほんとうは泣ける映画という表現はしたくないのですけれど。

まず何も知らない状態で観に行ってから、原作や映画公式ブックに触れると、新たな発見を得られるかもしれません。

 

 

誰もがみんな、この世界の片隅に生きている。

そうして、同じ時代に生きている他の誰かと出会い、別れ、新たな生をつむいでいく。

 

その意味を、何度でも何度でも考えたくなります。

 

さいごに、呉に行ったときの写真を。

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はんこ屋さんも「この世界の片隅に」を応援。

 

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美術館の手前にある、呉線の高架下近くの建物。現在は、海上自衛隊呉集会所になっているそう。

映画の中でも、外観は異なりますが当時の姿が少しだけ登場します。

 

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その建物の片隅に、ひなたぼっこする猫の姿が。

なんとも幸せそうで、印象的な光景でした。

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