さくらのレンタルサーバで使えるモリサワのWebフォントが3種類追加

以前、さくらのレンタルサーバで、モリサワの日本語Webフォントが無料で使える!という記事を書きました。

モリサワと提携したさくらインターネットのレンタルサーバで30種類のフォントが無料で使えるというサービスなのですが、2020年3月より、新たに三つのフォントが追加されました。

  • UDデジタル教科書体R
  • ヒラギノ丸ゴ W4
  • しまなみ

UD(ユニバーサルデザイン)というのは、文化や年齢、障害などの有無を問わず、誰もが使いやすいデザインのことをいいます。

そんな理念のもと作られるのがUDフォントですが、「UDデジタル教科書体」はとくに教育現場で使われることを想定して、さまざまな読みやすさのための工夫がされています。

実際に他の教科書体とよばれるフォントと比較して読みすすめの速度が改善したそうで、最新のWindows 10にも搭載されるなど普及が進んでいます。

 

誰もが平等に読みやすく、分かりやすい”文字”を社会に広めたい。UDフォントを開発するモリサワ社の想いとは。 #さくマガ #さくらインターネット – さくマガ

株式会社モリサワ。1924年(大正13年)創業。「文字を通じて社会に貢献する」をビジョンに掲げる。「邦文写真植字機」を世界で初めて発明し、その後はDTP化やWebフォントへの対応など、様々な時代の変化に合わせた”文字”を取り扱う会社。 ーーまず始めに、ユニバーサルデザインの概念とは何でしょうか? …

 

いっぽうのヒラギノ丸ゴはMacやiPhone、iPadなどのアップル製品で昔から搭載されているフォントで、こちらも読みやすい丸ゴシック体です。

 

さて、気になるのは最後の「しまなみ」です。

モリサワのホームページでは、オールドスタイルの明朝体ながら、毛筆のニュアンスを取り入れたエレメントが特徴と紹介されています。

とりわけ、穏やかに波打つようなひらがなが印象的です。まさに〈凪の渡し場〉にもぴったりなフォントで気に入っています。

2020年3月12日現在、さくらインターネット公式のWordPressプラグインでは未対応のようですが、JavaScriptでの利用は可能となっています。

HTMLのヘッダ部分に以下のタグを追加します。

<script type=”text/javascript” src=”//webfonts.sakura.ne.jp/js/sakurav3.js”></script>

スタイルシートで、それぞれ以下の font-family を指定します。

  • Shimanami JIS2004
  • UDDigiKyokasho R JIS2004
  • Hiragino Maru Gothic W4 JIS2004
.shimanamifont {
    font-family: "Shimanami JIS2004" !important;
}
<p class="shimanamiFont">ここはしまなみフォントで表示します。</p>

新たなWebフォントの世界に漕ぎ出しましょう。

明朝体という川の流れ – 月刊MdN 2018年11月号 特集:明朝体を味わう。

なんだか今年(平成30年)は季節外れの高温が続いていますが、この時季になると例年、「月刊MdN」をはじめとした雑誌でフォントに関する特集が組まれます。

今年も期待に違わず実りの秋となりました。

表紙に書かれた謳い文句は「ワインのテイスティングのように明朝体を味わう。明朝体ソムリエになりたい」。

どこまでがテーマ名なのかよくわかりませんが、〈明朝体を味わう。〉だけは秀英明朝で組まれていて、それ以外は秀英丸ゴシックなので、真ん中だけが正式なテーマ名なんでしょうね(笑)。

付録の書体見本帳も、「明朝体テイスティングリスト」という体裁になっています。

 

明朝体だけに、名は体を表す。

明治から平成に至るまで、この日本に生まれた明朝体の数々を、デザイナー、研究家、あるいはフォントや印刷会社に勤める関係者に取材し、それぞれの特徴を多角的に味わう構成になっています。

ひとつひとつのフォントが詳しく見開きで紹介されていますが、それらは独立して生まれたわけではありません。

ワインの元になるブドウが交配を重ね、あるいは品種改良が進められたように、明治時代、活版印刷が輸入されて生まれた日本の明朝体は、活字から写植、現代のデジタルフォントという歴史の中で、あるフォントがあるフォントに影響を受けたりしながら、何世代にもわたって使われ続けています。

あるいは「水のような、空気のような」と評される明朝体フォントだけに、最初は小さなせせらぎが、やがて大きな川の流れとなり、幾重にもわかれ、また合流をくりかえす、そんな壮大な景色も浮かんできます。

たとえば、Windowsに搭載されているMS明朝のようなありふれたフォントも、金属活字の本明朝がルーツになっています(ちょうど本文の説明部分が脱落しているのが惜しい)。対するにmacOSに搭載されているヒラギノ明朝は、写植時代の本蘭明朝を意識したといいます。

 

明朝体はとりわけ、小説などの「ものがたり」を語るのにふさわしいフォントだとされます。

それは、水のように個性を抑えて文章をつむぐための存在でありながら、それ自身が、深い歴史性、ものがたりを裡に秘めているからなのかもしれません。

 

フォントワークスの年間定額フォントサービス mojimoに、kirei・kawaii・oishiiの3パックが追加

以前「凪の渡し場」では、フォントワークスの新しい年間定額フォントサービス mojimo manga を取り上げました。

 

mojimo manga(以下manga)は「第1弾」と銘打たれていたので、さらなるラインナップのフォントパックが登場することを期待していましたが、8/28から新しく、3パックのサービスが開始されています。

少し紹介が遅くなってしまいましたが、今回はこちらのサービスを比較してみます。

 

新しいパックは kirei・kawaii・oishiiの3種類。

契約方法やインストール方法は、manga と同様のため割愛します。

既に契約中の場合、mojimo会員ページにログイン後、【ご契約情報】>【契約の追加】で追加を行うことができます。

会員トップページからの導線が少しわかりにくいのでご注意ください。

 

使用許諾も manga と同じですが、kirei・kawaii・oishii では法人契約も可能なことが大きな相違点です。

もちろん、インストールできるフォントも異なります。

manga は36書体で年間3,600円、kirei・kawaii・oishiiはそれぞれ8種類で年間1,200円と、1フォントあたりの価格は少し高くなっていますが、総額は安くなっているのがポイントです。使いたいフォントによっては、むしろmangaよりお得に感じる人もいるかもしれません。

では、実際にどんなフォントがインストールされるのか、公式サイトでは別ページになっていてわかりにくいので一覧表を作成してみました。

PDF版

※アンチックセザンヌは、漢字のセザンヌにアンチック体のひらがな・カタカナを組み合わせたフォントですが、便宜上ゴシック体に入れています。

 

比較表をながめてみると、いろいろ興味深いことに気づきます。

フォント名のあとにMとかDとあるのはウェイト(文字の太さ)を表すものです。

本来、それぞれのフォントはウェイト別に複数の種類が用意されていて、それを全部収録してひとつのフォントになるのですが、mojimoでは各パックによって1,2種類のウェイトをうまく分散収録していることがわかります。

kireiの特徴

「綺麗」と言うだけあって、筑紫書体を中心とした明朝体フォントが充実しています。

「クレー」は硬筆フォントで、筑紫A丸ゴシックとともにmacOSにも搭載されているので、Macユーザがkireiを検討する場合は「筑紫明朝が年間1,200円で使える!」と考えたときにお買い得と思えるかどうか、でしょうか。

小説などの文章を組む場合には、とても重宝すると思います。

 

kawaii の特徴

ゴシック体・丸ゴシック体を揃えつつ、デザイン書体らしさも備えた「スキップ」「ハミング」といったフォントも含んでいて、使いどころがありそうです。

mojimo-kawaii|提供書体一覧|mojimo

mojimoは特定の用途ごとに最適な書体をセレクトし、年間定額制で提供します。

ちなみにサンプル文が kirei・kawaii・oishiiで別の文になっていて面白いです(笑)。

 

oishiiの特徴

筑紫書体の中でもとりわけ特徴のあるデザインの筑紫Cオールド明朝、筑紫アンティークLゴなど、各カテゴリのフォントがバランスよく収録されています。

迷わず使いわけたい! 筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシックでは、ちょうどAランチとBランチのどっちを食べるか、という例で両者の違いを説明しましたが、kireiやkawaiiでは筑紫A丸ゴシック、oishiiは筑紫B丸ゴシックが搭載されているということは、フォントワークス公式にはBのほうが美味しい、ということでしょうか(笑)。

 

mangaの特徴

最初に、1フォントあたりの価格は少し高いと書きましたが、実はmangaに収録されているフォントの多くは、比較表で省略した明朝体・ゴシック体以外のデザイン書体です。

あくまでマンガを描かないわたしが半年使ってみた感想としては、これらのフォントは使いどころが限定されるため、もう少し明朝体・ゴシック体のラインナップが充実していたら、と思うこともありました。

そこに、今回の3パックが追加されたというのは、ある意味狙い通りかもしれません。

それぞれのパックで、絶妙に使いたいフォントがあり、どれを契約しようか、いっそ全部契約しても値段はmangaと同じか…と、悩ましいmojimo新パックでした。

 

 

NHK 美の壺 – 心を伝えるフォント

暮らしの中に隠れたさまざまな美を紹介するNHKの番組「美の壺」で、フォントが特集されていました。

美の壺 – NHK

おかげさまで番組は13年目! 壺のいい感じ、究めます。

「想いを伝える」コミュニケーション手段としてのフォントの奥深さ、幅広さが文字通り伝わってくる内容でした。

フォントで想いを伝えるブックデザイナやグラフィックデザイナー、そしてフォント自体を作るフォントデザイナーなど、さまざまなかたちでフォントに関わる人々が登場します。

そして、それらの源流をたどっていくと、中国の明の時代から伝わり、日本では明治時代に活版印刷として普及した明朝体に行き着きます。

いっけん同じように見える明朝体でも、人によって伝えたい想いが異なり、それを表現するために、いまも新たなフォントが生み出され続けています。

 

たとえば、フォントワークス・ 藤田重信さんの筑紫シリーズ

筑紫書体シリーズ|フォントコラム|FONTWORKS | フォントワークス

フォントコラム|

たとえば、鈴木功さんの金シャチフォントに代表される都市フォントシリーズ。

こちらは名古屋城の金シャチを明朝体のデザインに取り入れています。

Type Project | 都市フォントプロジェクト 名古屋

街から生まれた文字が街で使われ、育まれ、いつか街の風景になる。それがタイププロジェクトが提唱する「都市フォント」プロジェクトのビジョンです。名古屋をイメージした「金シャチフォント」や、横浜の港をイメージした「濱明朝体」など、タイププロジェクトが取り組んでいるプロジェクトを紹介しています。

文字に、文字以上の想いをつめこもうとすること。

そのこだわりはある意味欲張りで、だからこそ切実で、崇高なものかもしれません。

 

番組内のドラマパート(?)では、草刈正雄さんが町内会イベントのチラシを作るためのフォントを選ぶというシチュエーションを演じていました。

フォントが多すぎて選べないときは考えるより感じる、それも一つの手です。

フォントの歴史や背景を知ることも大切ですが、それがすべてではありません。

自分なりの視点、感覚で、伝えたい想いをフォントに託してみましょう。

 

 

文学とめぐりあう文字のものがたり – 文字と楽園

ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」という作品があります。

児童文学の名作として名高いこの本は、全26章それぞれの扉絵にAからZまでのアルファベットが描かれています。
本のなかの世界「ファンタージエン」で起きることは、すべてAからZまでの文字でものがたることができます。

もちろん、岩波書店から出版されている日本語版の本文では、アルファベット以外の漢字・ひらがな・カタカナが使われているのですが、そのフォント(書体)こそが精興社書体とよばれる、とくべつな存在だったのです。

 

精興社書体は、戦前から岩波書店の出版物を多く手がけてきた印刷会社、精興社オリジナルの活字がもとになっています。

伝統的な明朝体の中にあって、平べったく独特の流れをもった「かな」のデザイン。

そんな文字に魅せられ、精興社書体で組まれた本を追い続けていった人がいます。

正木さんによると、戦後あたらしく作りなおされた精興社書体がはじめて使われたのは1956年(昭和31年)、夏目漱石の全集「吾輩は猫である」であったそうです。

そして同じ年、三島由紀夫の「金閣寺」にも使われたことで、作中に現れた美しい金閣寺の姿を、読み手は精興社書体の文字の向こうに見ることになるのです。

それから三十年後、この書体は現代を代表する作家・村上春樹の「ノルウェイの森」に使われたり。

はたまた、ブックデザインなども手がけるクラフト・エヴィング商會のお一人、吉田篤弘さんの「つむじ風食堂の夜」に使われたり。

クラフト・エヴィング商會の名前は、大正から昭和に活躍した作家・稲垣足穂に由来するそうですが、その稲垣足穂の装丁を他ならぬクラフト・エヴィング商會が手がけたとき、選ばれたのも精興社書体だといいます。

作家や出版社、多くの人に愛され、名だたる文学作品とめぐりあいを重ねてきた文字。

 

同じ文字でも、異なる作者の手によって、まったく異なる世界が紡ぎだされます。

けれど逆に、文字を縦糸にして見ることで、さまざまな本と本がつながり、あたらしいものがたりが姿をあらわします。