これまで〈広島偏愛シリーズ〉では主に、広島市内のさまざまなものことを紹介してきました。
けれど広島県は、その名のとおり広い。
瀬戸内ときいて頭に浮かぶ海沿いだけでなく、山間部にも多くの魅力的な場所があります。
今回は、そのなかで三次の文芸にまつわるスポットを訪れてみます。
三次駅前の観光案内所には、アマビエのもととなったとされる予言獣・アマビコ(尼彦)がお出迎え。
三次は「稲生物怪録」という、江戸時代に生まれた実話系怪談の舞台です。
三本の川が交わる三次(みよし)市。駅から川を越えた先に広がるのが三次町で、駅周辺の地名は「十日市」だそう。
写真を撮り忘れましたが「三次市十日市町」という表記を見たときは、ちょっと驚きました。3なのか10なのか。
参考までに、写真に写っている鉄橋は廃線になった旧国鉄・JR三江線の鉄道専用橋で、いかにも渡れそうで渡れません。
三江線については次の記事で取り上げました。
そんな謎多き駅前から車で数分、「湯本豪一記念日本妖怪博物館 三次もののけミュージアム」にやってきました。
インタラクティブな映像を交え、さまざまな妖怪の来歴を楽しく学べます。
チームラボの「妖怪遊園地」を利用する場合は料金が変わります。
個人的に、この「人面草紙」のキャラクターがかわいくてお気に入り。
ミュージアムを楽しんだ後は、アマビコさまとパイロンさまに誘われて「もののけ小路」へ。
石畳の風情ある街並みがひろがっていました。
みよし・うかいマンホール。
なんだか気になる漆喰塀の酒蔵と井戸。
タイミングが合えば、お地蔵さまと一緒におひるねするお猫さまが見られるそうです。
ゆっくりと散策するのも楽しそうですが、今回はこのあたりで、次の目的地に向かいます。
遠く島根県までのびる国道54号を車で北へ30分ほど。
現在は三次市布野町ですが、旧国道には布野村と書かれたマンホールが残っていました。
ここ布野を中心に活躍したアララギ派歌人・中村憲吉の生家が、記念文芸館として整備されています。
となりの布野図書館も、山あいの風景に調和して美しい。
中村憲吉記念文芸館は無人で、自由に観覧できます。
ふるさとの山がはの町は夜霧して空にいざよふ十日餘の月 (中村憲吉)
中村憲吉記念文芸館 庭園碑
外から見ても実に立派な建物です。
ちなみに右側に見える木がアララギでしょうか?
館内の資料によれば、憲吉は地元の名家だったようで、短歌だけでなく布野の将来を見据えたヒノキの造林事業などにも手がけていたそう。
ヒノキは平成になって切り出され、道の駅などに活用されています。
中村憲吉は出版された歌集は少ないものの、千光寺公園など瀬戸内各地に歌碑が建てられ、多くの人に愛されていることがうかがえます。
歌人仲間との交流でいえば、斎藤茂吉や島木赤彦らと五人で合作した掛け軸のレプリカが印象的でした。
実物は松山市の正岡子規記念館にあるそうで、また松山にも行ってみたくなりました。
時を超えても形を超え、語り継がれる。
その魅力の一端にふれる旅でした。