芸術をみつけだす観察者の視点 – 赤瀬川原平の芸術原論

芸術、アートとは何か。

それはとても奥が深く、裾が広い問い。

たったひとつの正解があるものではなく、それこそ人によって無数の答えがあることでしょう。

そうだとすれば、この質問は、その人が世界をどう見ているか、その視点を尋ねていることにひとしいと言えます。

 

この本では、赤瀬川原平さんによる、芸術への視点が語られます。

 

さまざまな雑誌などに掲載されたエッセイをまとめたもので、内容をふまえて全部で5章に編集されています。

もともとの美術家としての赤瀬川さんの側面に視点を合わせる人は、「II 在来の美」での美術(絵画)についての論考に注目するでしょう。

また、超芸術トマソンという概念を生み出し、路上観察学へと発展させた赤瀬川さんに着目すれば、やはり「IV 路の感覚」がおもしろい。

「V 芸術原論」も、トマソンや路上観察でよくみられる物件の分類が紹介されていて、これから路上観察をはじめる人にも参考になります。

 

ただ、それらに分類されることもない、いっけん雑多な話題が散りばめられた「I 芸術の素」の文章が、実にいいのです。

自分の意識が、自分にだけわかるもので、他人にはわからない。

人間は生まれたら誰でも必ず死ぬ。いままでの長い人類の歴史の中で、ただのひとつも例外がない。
そんな、子供の頃にふしぎだと思いながら、いつしか当たり前のこととして受け入れてしまっていたことを、ふしぎのままとして掘り下げていく、この感覚。

 

とくに好きなのは、「波打つ偶然」と名づけられたエッセイ。

思いがけないところで知り合いに会ったり。

お互いが、別のところで似たような経験をしていたり。

そして、そんな偶然というものに何らかの意味を見いだしてしまう、それも人間というもの。

 

そんな偶然を偶然として片づけない視点が、路上観察学にも活かされています。

トマソンや路上観察学が芸術になるのは、それを作った人ではなく、観察する人の視点によって、新たな意味が見いだされるから。

物件はそこにあるから、そこに行けば誰でも発見できる、しかしそこへ行く才能というものがあるのだった。物と出合う才能である。物を見る才能ということも混じるわけで、自分でも名品を見つけたあとは気分が高揚して、目が冴えわたるのがわかり、たてつづけに名品を見つけたりする。(p.314)

路上観察をしていると、このことはよくわかります。

 

まちを歩いていて、偶然に出会う物件。ふつうは通り過ぎてしまうようなものでも、路上観察の目をもっていれば、それを発見することができます。

 

ちなみに、この本では先に説明したとおり物件の分類も紹介されているのですが、それに沿ってだけ物件を集めても面白くない、と書かれているのが興味深いところ。

路上観察学を「学問」としてみれば、収集して分類することに重きを置いても良いと思いますし、実際そうやって一ジャンルに特化した活動をされている方も多くいます。

けれど赤瀬川さんにとって、「芸術」としてみれば、それはひとつの正解を求めているだけで冒険がない、ということなのでしょう。

 

路上観察学にも、無数の視点があって、無数の答えがある。

そんなこともあらためて発見した一冊でした。

 

瀬戸内国際芸術祭 – 西の島・粟島で、記憶を未来につないでゆく

はやくも暦は11月となり、瀬戸内国際芸術祭2016の秋会期も終わりが迫ってきました。

どうしても会期中にお伝えしたいのが、秋会期だけ会場となる西の4島、本島・高見島・粟島・伊吹島の魅力。

(四国本島と陸続きになっている沙弥島のみ、春会期)

 

東の島々に比べれば宇野港や高松港からも遠く、面積も小さいながら、そのぶん濃密な、島の時間を味わうことができます。

 

アート作品自体も、島の歴史や風習をテーマにしたり、島の人々といっしょに作り上げたものが多く見られます。

そこで、この島々では、ぜひ地元の人に話を聞くことをおすすめします。

芸術祭の公式サポーター・こえび隊のみなさんはもちろん、それ以外でもボランティアでガイドや手作りのおみやげをつくられている方が多くおられます。

 

粟島や伊吹島には、島四国とよばれる八十八か所めぐりがあります。

四国本島のお遍路さんと同じく、そうした旅人へのお接待の文化が引き継がれているおかげかもしれません。

 

今回は、そんな西の島のひとつ、粟島をご紹介します。

 

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日本初の海員養成学校だった建物を利用した、粟島海洋記念館。

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記念館向かいの「一昨日丸」とともに、日比野克彦さんのプロジェクトが展開されています。

一昨日丸が海底から引き上げたものを展示し、見る人に想像させる SOKO LABO。

路上観察学ならぬ、海底観察学でしょうか。

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ここから三十分ほど歩き、港と反対側の西浜へ。

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引き上げたレンガでつくられた「Re-ing-A」(レインガ)が沖合に漂流しています。

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堤防には、日比野さんのことばを、地元の小学生が一文字ずつ手書きしたパネルがまっすぐに並びます。

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そこにあるのは、過去形の記憶。けれど、こどもたちといっしょにことばをつむぐことで、それは現在進行形になり、未来へと向かっていく。

そんな希望を感じさせます。

 

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漂流する記憶といえば、漂流郵便局。

届け先のわからない、あるいはもう届けることのできない人へ向けた手紙を預かる郵便局です。

三年前にはじまったこのプロジェクトが、ずっと継続され、いまも毎日、誰かからの手紙が届き続けています。

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さいごに、旧粟島中学校の校舎を利用した粟島芸術家村。

 

島に滞在するアーティストが、島にゆかりのある人々から注文を聞いて作品を作り上げる「誰がための染物店」。

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作品を見るということは、人の記憶にふれるということ。

ものがたりに耳をすますということ。

 

あなたは、島から、どんなものがたりを聴くでしょうか。

 

 

西日本まちあるきのおともに – マイ・フェイバリット関西・北陸・瀬戸内

広島をはじめとする瀬戸内地方への偏愛を公言しているわたしですが、その地方に住んでいないぶん、イベントやおでかけスポットなどの情報収集はこまめに行う必要があります。

おもしろそうなイベントを見つけても、直前すぎて予定が合わない、あるいはすでに終わっていた、となっては悔しいもの。

今回は、そのために便利そうなウェブサイトを見つけたのでご紹介します。

関西・北陸・せとうちエリアのおでかけ&観光情報【マイフェバ】

マイフェバは関西、北陸、瀬戸内(せとうち)エリアの旬なおでかけ&観光情報を提供!話題のカフェやグルメ、最新の雑貨や手みやげなどのスポット情報から週末のイベントまで多数掲載。おでかけのスポットやイベント情報を探すならマイフェバへ。

トップページは「マイ・フェイバリット関西」ですが、上部のバーから北陸や瀬戸内のページに切り替えることができます。

北陸のおでかけアプリ&WEB マイ・フェイバリット北陸

北陸の旬な観光&おでかけ情報をお届け!話題のカフェ、地元グルメから週末のイベントまで多数掲載。

 

瀬戸内(岡山・広島)のおでかけ&観光情報【マイフェバ】

マイフェバは瀬戸内の旬なおでかけ&観光情報を提供!(岡山、広島、愛媛、香川)などの町で話題のカフェやグルメ、最新の雑貨や手みやげなどのスポット情報から週末のイベントまで多数掲載。おでかけのスポットやイベント情報を探すならマイフェバへ。

この地域区分とロゴの色でわかる人にはわかるのですが、実はこのサイト、JR西日本が運営しています。

関西地方はJR東西線のラインカラーをイメージしたオレンジ。

瀬戸内地方は山陽本線やJR四国をイメージした青と緑。

北陸地方はJR東海をイメージしたオレンジ。

あくまで推測ですよ(笑)。

 

もちろん、鉄道沿線だけでなく、さまざまなおすすめスポット、イベントが紹介されています。

無料会員登録すると、マイページがつくられ、気になる場所をブックマークしておくことができます。

さらにスマートフォンアプリと連携して、実際にそこを訪れてチェックインすることもできるようです。

フレンド登録機能もあるので、SNS的な使い方も想定されているようですね。

 

自分でスポットを登録することもできます。

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実際に訪れないとチェックインできないので、事前に行きたい場所のリマインドとして使えないのはおしい。

ですが、友人に自分のおすすめスポットを共有するという使い方はできそうです。

 

マイ・フェイバリットを活用して、文字通り自分だけの偏愛スポットを見つけてみましょう。

旅の終わり、あるいは始まり。- あいちトリエンナーレ2016

8月にはじまった、三年に一度のアートの祭典、あいちトリエンナーレ。

三回目となる今回も、ついに先週、10月23日にフィナーレを迎えました。

当日は長者町ゑびす祭りが同時開催されており、そちらにも足を運びました。

 

六年前、第一回のあいちトリエンナーレ2010から会場となっている長者町繊維街は、トリエンナーレで大きく変わった街だといいます。

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こちらは六年前の画像。偶然にも、ほぼ同じ場所を、今年も撮っていました。

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手前の駐車場では、トリエンナーレ連携事業として、JIA愛知(日本建築家協会東海支部 愛知地域会)による建築家フェスティバルが行われていました。

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街や建築への想いを、短冊にして飾るというブース。

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ちょっと関係ない短冊もある気がしますが、それはそれで。

にぎわいのある街には、人が集まる。そして、少しずつ古いものが形を変え、何か新しいことがはじまる。

 

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木材を利用したウッドデッキやベンチを街中に配置した、都市の木質化プロジェクト。

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堀田商事のルアンルパさんによるルル学校(N-57)も祝卒業の幕が掲げられていました。

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祭りといえば山車。八木兵錦6号館で展示されていた白川昌生さんの銀のシャチホコ(N-61)も、山車として表舞台へ。

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アートと屋台が同居する、長者町ゑびす祭り。こちらはロゴがかわいくて思わず足を止めてしまった、いなよしのからあげ。からあげも、とても美味でした。

 

そして、栄会場の中央広小路ビル、大愛知なるへそ新聞社へ。

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人々の記憶を取材し、まちの建物が建てかわるように、少しずつ記事が変化していく「記憶の地図」。

そのコンセプトに惹かれて、トリエンナーレ開催前、長者町の学書ビルでの活動当初から参加させてもらいました。

 

初回の取材は、都市の木質化プロジェクトやルル学校にも関わっておられる、滝一株式会社の滝さんでした。わたしが書いた記事ではないですが 、なるへそ新聞の0号に掲載されています。

わたし自身での取材はなかなかできなかったのが心残りですが、記事を手書きにしたり、題字を書いたりと、記者として楽しい時間を過ごさせてもらいました。

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こっそり空き地に置いておいたパイロンが、まさか最終号まで残ることになるとは。

そう、この日に発行された17号をもって、大愛知なるへそ新聞も完了。

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最後に編集長から直々に落款を押してもらいます。

山田亘編集長、村田仁副編集長、そして編集部記者、記事連載陣の方々(港千尋芸術監督も!)、取材を受けていただいた方々、来場者の方々。

トリエンナーレがなければ、出会うことがなかったかもしれません。

ここで、さまざまな縁がつながり、交流をもつことになった、すべてのみなさまに感謝を。

 

19時をまわり、「虹のキャラバンサライ」を掲げたあいちトリエンナーレ2016の旅は、ここが終着点。

20世紀をイメージしたこの編集部も、文字通り記憶へと変わっていきます。

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けれど、終わりは新しい始まり。

街と人は、少しずつ変わりながら、生きているかぎり歩みを止めることはありません。

 

三年後、あいちトリエンナーレ2019は、どのような形で迎えることになるのでしょうか。

そのときを楽しみにしつつ、ここからまた、新しい旅がはじまります。

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豊橋・水上ビルで、まちの記憶にふれる

ついに会期わずかとなった、あいちトリエンナーレ2016。

今日は、なかなか行く都合がつかなかった豊橋地区を取り上げます。例によって、作品以外の視点多めです。

 

豊橋へは、JR、名鉄、あるいは東海道新幹線で豊橋駅へ。作品会場は駅周辺に集中しています。

とくに印象的なのが、その舞台のひとつである、水上ビル。

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豊橋には何回か訪れているのですが、路面電車の北側エリアしか歩いたことがなく、今回その存在をはじめて知りました。

その名の通り、農業用水路の上に連なるビル群の総称です。

大阪の船場センタービル(高架道路の下につくられたビル)に負けず劣らず、なかなか見られない、めずらしい構造ではないでしょうか。

ビルの1階は商店街になっていて、トリエンナーレ作品と、商店街の看板を同時に楽しむことができます。

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NOWなスナック。

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怪盗のほうのルパンはLupinなので、別の意味があるのか…そしてフォントがMSゴシックに見えるのも気になります。

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健康への Hop Step Jump!

Microsoft Officeで作ったようなクリップアートが、たまらない味を出しています。

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ごく自然に見逃してしまいそうな「はちみつ」ですが、よく考えると一箱でも足りなかったり、順番が入れ替わっていたら読めなくなるわけで、使い手の律儀さを試されているデザインだなぁと。

 

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いろいろと話題になっているらしいラウラ・リマさんの作品(T-04)ですが、鳥たちはどこ吹く風。

それよりも、この渋ビルの風情に注目がいってしまいます。

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ヨルネル・マルティネスさんの作品(T-05)。セメント袋でつくられた雑誌というメディアのかたち。

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海外の日用品のパッケージ。タイプディレクターの小林章さんがつくられたフォントがいくつもありそうです。

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こちらは作品ではないですが、トリエンナーレ公式ガイドブックに載っており、気になっていたヒグラシ珈琲さん。

レトロ喫茶店をメンテナンスして近年オープンされたとのこと。

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いっぽう、こちらは別の会場、開発ビル地下の喫茶店。めずらしい形のリガチャ(合字)。キーコーヒーのステッカーが横向きなのも気になります。

今回は時間が合わず、どちらも行けなかったので、文字通り Try Again、再訪を誓ったのでした。

開発ビルの中も、それはそれは素晴らしい空間。

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あえて作品紹介はひとつだけ。この記事のしめくくりにはぴったりな、岡部昌生さんによるフロッタージュ作品(T-13)、豊橋市のマンホール。

 

記録されることで、まちは人の記憶に残る。

今回のあいちトリエンナーレ全体に通じるテーマを、そこに感じました。