いくつになっても、紙を楽しむ – ぺぱぷんたす Vol.001

あなたがこどもだったころ、印象に残っている「紙」との思い出はあるでしょうか。

はじめて買ってもらった絵本?

幼稚園や保育園で習った折り紙?

学習雑誌や、その付録のカード?

 

性別や年代によってもそのかたちはさまざまでしょうが、多くの人にとってなにかしら特別な紙との出会いがあったにちがいありません。

そして、そんなこどもごころを忘れず、紙をもっともっと楽しむための雑誌を作ろうと思った人たちがいます。

ぺぱぷんたす|小学館

豪華アーティストによる、楽しい企画がもりだくさん! 紙と子どもとデザインと。新感覚ムック「ぺぱぷんたす」誕生!

発行は学習雑誌の雄・小学館。

アートディレクターは、あらゆる紙・印刷の表現力を駆使するデザイナー・祖父江慎さん。

 

紙だからこその仕掛けを盛り込んだ絵本、紙工作、特殊印刷など、この一冊に、あらゆる紙の魅力が詰め込まれています。

もちろん、紙とは切っても切れない関係の文字(フォント)にまつわる特集も外せません。文字で遊ぶと言えばこのユニット、

大日本タイポ組合さんによる「かみかくしもじ」「かみあわせもじ」「かみがっかりもじ」。もう、タイトルだけでときめくとくしゅう…!

 

学習雑誌っぽい記事としては、紙のできるまでを追った「かみは『き』からできている」がためになります。

こちらは、東日本大震災に被災しながら復興を遂げた日本製紙石巻工場が協力されています。

それ以外にも、切ったり折ったり、貼ったり書いたり。

本誌に紹介されていた折り紙細工を参考に、ねことねずみを折ってみました。

(今回は付属している特殊紙ではなく、手元にあった柄紙を使いました)

 

この本の対象年齢は「4歳から100歳まで」。

対象年齢のお子さんがまわりにいる方は、ぜひご一緒に。

もちろん大人でも、ひとりでじっくり、みんなでわいわい。いろんな楽しみ方ができる雑誌です。

 

個人的には、101歳になったら楽しめないかというと、おそらくそんなことはないと思います。

そう、わたしたちはいくつになっても、紙の子なのです。

 

自分も人も、よりよく生きるために – かかわり方のまなび方: ワークショップとファシリテーションの現場から

ファシリーテーターという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 

ワークショップや参画型のミーティングなどで、コーディネーターとか司会進行に近い役目をもった人のことを言います。

ファシリーテート(facilitate)とは「容易にする」「促進する」と訳され、その場にいる人とのかかわりを容易にすることが、

ファシリテーションと言えます。

 

さまざまなイベントやワークショップに参加する中で、ときとして実に魅力的なファシリテーターの方に出会うことがあります。

わたし自身、ファシリテーターを引き受けることもありながら、その差は歴然としていて、それは何故か、どうしたらファシリテーションをうまくできるだろうか、と考えるようになりました。

そんなとき出会ったのが、以前に「自分をいかして生きる」という著書を紹介した「働き方研究家」西村佳哲さんによる、こちらの本。

さまざまな現場でワークショップを実践したり、ファシリテーターとして活躍されたりしている人との対話から「人とのかかわり方」という視点でファシリテーションについて考察していきます。

 

とくに、後半に紹介されている、心理学者カール・ロジャースの提唱した「パーソン・センタード・アプローチ」という概念が興味深いです。

ワークショップを促進するとはいっても、それは主催者の思惑による「こうあるべき」というゴールに向かうのではない。

あくまでそこに集った参加者ひとりひとりを中心に据えて、おのずから解決に向かって進み始める。

そんなパーソン・センタード・アプローチに必要な三つの条件があります。

  • 共感
  • 無条件の肯定的尊重
  • 自己一致

自己一致というのはむずかしい概念ですが、この本を読むかぎりの理解は「自分らしくあること」。自分が思っている自分と、客観的に思っているその人が一致していること。

これもまた、なかなかに衝撃的でした。

まわりがいくら認めても、自分自身でそれに納得していないかぎり、一致していることにはならない。

そんなモヤモヤがわたしの中にあったこともたしかなので、それがわたしのファシリテーションに欠けている要素だったのかもしれません。

 

インタビューの中で、橋本久仁彦さんが語る言葉に、人間は「よくなりたい生き物である」というのがあります。

方法は人それぞれでも、毎日を生きる中で、ちょっとずつでもよくなりたい。

ワークショップという場は、そんなよりよく生きるための道の途中で、ふと集った人たちがつくりあげるもの。

そんな視点でファシリテーションをとらえ直せば、きっと、ファシリテーターとしての自分も、参加者としての相手も、よりよくなることができそうです。

 

街をゆく人々の足跡を感じる – ストリート・ウォッチング

路上観察の目をもって街へ出れば、あらゆるものが観察の対象として楽しむことができます。

でも、街にあるのはモノだけではありません。

街を行き交う人々にまで目を向けて、まちあるきを楽しめる本が、こちら。

 

たとえば、ぽかぽかした陽気の日。

ふかふかした芝生の上で、ゆるやかな傾斜のついた河原で、ついリラックスして寝転んでしまう人々の姿。

 

あるいは、にぎやかな休日のメインストリート。

路上ライブがはじまり、道行く人が足を止め、いつとはなしに人だかりができる。

 

街と人が相乗効果をもって、刻一刻と変わる風景が生み出されていきます。

 

そんな人によって生み出される街の風景のひとつに、行列があります。

流行のお店や老舗のお店の前にできる、楽しみを待つ行列があるいっぽうで、駅のホームやスーパー・コンビニのレジ前のように、並ばざるをえない行列もあります。

わたしはどちらにせよ行列がとても苦手なのですが、視点を変えて、行列に並ぶ人自体を観察することで、客観的な気持ちになることができます。

同じように時計を見てイライラしている人、スマートフォンなどで時間をつぶす人…。

まだしも、通勤でいつも使う駅やなじみのお店であれば、どこに並べば良いか見当がつくものですが、はじめての場所では、勝手がわからなくて余計にイライラするもの。

そんなときも、地元の人であろう周囲を冷静に観察することで、行列にうまく対処するコツが見つかるかもしれません。

 

そもそも、行列があると並んでしまう、というのも人の心理学的な行動ですね。

まわりの人の動作につられてしまう「同調現象」「同調行動」について、この本でもいくつか触れられていますが、有名なものに路上観察学会の「御所の細道」があります。

京都御所を取り囲む京都御苑の砂利道に、うっすらとできた一本の道。

御苑内を自転車で通る人々が、同じところを通るために自然にできた跡だといいます。

 

路上観察から、やがて人間観察につながる。

まちあるきの楽しみは、さらにひろがります。

 

 

子供雑誌と童画の世界 – 描かれた大正モダン・キッズ

あなたがこどものころ、読んでいた雑誌はなんでしょうか?

 

わたしにとって思い出深いのは、小学館の学年別学習雑誌。

年号が昭和から平成に変わるころ、「小学一年生」から「小学六年生」まで6誌が揃っていたその雑誌を、自分の学年はもちろん、すこし背伸びして、ひとつ上の学年分も買ってもらった記憶があります。

いまや「小学一年生」以外は休刊してしまったことに時代の流れを感じますが、そんなこども向け雑誌の草分けのひとつ「子供之友」にまつわる企画展を見に、刈谷市美術館に行ってきました。

描かれた大正モダン・キッズ 婦人之友社『子供之友』原画展|刈谷市|刈谷市美術館

『子供之友』は婦人之友社から1914年に創刊され、大正から戦中の子どもたちに愛読されました。童話、伝記読物、漫画など多彩な内容で、北澤楽天、竹久夢二、武井武雄らの魅力的な作品が毎号誌面を飾りました。モダニズムの時代に花開いた幼年絵雑誌の軌跡を、原画150余点や同時代の雑誌などで辿り、その芸術性を紹介します。

刈谷市美術館の最寄駅はJR東海道線・名鉄三河線の刈谷駅。

駅前には、大きなポスターが掲出されていました。

駅から南へ徒歩10分ほど、まちあるきを楽しみつつ向かいます。

ちょうど6月ということで、あじさいがきれいに咲いていました。

といいつつ、刈谷市の花はカキツバタ。くるくるしたKARIYAのロゴがかわいい。

こちらのマンホールにもカキツバタが…と思ったら。消火栓が先か、点字ブロックが先か。

 

そんなこんなで、刈谷市美術館に着きました。

婦人之友社から、大正〜昭和の戦時中に刊行された「子供之友」誌。

その表紙や誌面を彩った原画が一堂に会していました。

今回は立ち寄れませんでしたが、この美術館には茶室が併設されており、展示にちなんだ和菓子の呈茶サービスもあります。

 

原画展は、時代の空気を感じるものから、猫などの動物を擬人化した童話のようなカットのように、現代にも通じるセンスのものまで色とりどり。

見開きのポスター、絵の一部が立体的に飛び出す仕掛け絵、正月付録のすごろくなど、雑誌らしい工夫もたくさん紹介されていました。

 

会場の解説ではじめて知ったのですが、婦人之友社は現在も存続していて、社名と同じ名前の雑誌「婦人之友」や、家族向け雑誌「かぞくのじかん」などを刊行しているとのことでした。

婦人之友社 生活を愛するあなたに

2015年に建業112周年を迎えた婦人之友社。生活を愛する気持ちとよい家庭がよい社会を作る、そんな信念のもとで雑誌作りを行っている出版社のホームページです。

 

「子供之友」も2017年6月現在、2冊だけ復刊されています。

この当時は原画家が雑誌のロゴも描いているのか、号によってロゴが変わるのもおもしろい。

個人的には、下のポスターで右上に写っている竹久夢二のロゴが好きです。

ちなみにこのポスターのロゴはモリサワの見出ゴMB31(この記事のタイトルと同じです)、およびカタオカデザインワークスのと思われます。

 

文字や絵、果ては雑誌までもがデジタルになっても、こどもの夢をはぐくみ、大人も楽しめる世界はきっと、いつまでも変わらずにあり続けますように。

 

日常に静かに寄り添う – めぐりあう日々の用品 ずっと使いたい87のもの

わたしたちは日々、さまざまなものに囲まれて暮らしています。

そんな中で、なんとも言えず手になじんだり、末永く大切に使いたいと思えるものに出会うことがあります。

そんな、モノへのあたたかで丁寧なまなざしが感じられる、こちらの本を今回はご紹介します。

 

民芸品のような一点ものの手仕事から、食器、綿棒のように大量生産されるものまで。

「はたらく」「あそぶ」「もてなす」「たしなむ」といった日常のシーンに合わせて、形も大きさもさまざまな品が登場します。

でもどれも、どこかなつかしくあたたかい。

こんなふうに、作り手の想いが込められたものに囲まれて暮らす日々を想像するだけで楽しくなります。

 

また、著者の津田さんの文章が、実に静かで素敵なのです。

 

好きなものを語るとき、誰しも独特の熱量がこもります。

それでいて、声高に主張しすぎない。それこそが著者のいう「たしなみ」につながるものだと感じます。

大きな声を上げた瞬間、聞こえなくなるものがある。見えないものに気づかなくなる。

 

日々の暮らしに静かに寄り添うものだからこそ、語り口もそれにふさわしく、静かで地に足のついたものでありたい。

 

そんな、ものを語る視点でも勉強になる一冊です。