あのマンガ、あのアニメのフォントが使える – フォントワークスの「ちょうどいい」年間定額フォントサービス mojimo

このブログ〈凪の渡し場〉では、まちなかのポスターや、本の表紙などでよく使われる、さまざまなフォントを紹介してきました。

そんなフォントを自分でも使いたい! と思ったときは、フォントメーカーが提供している年間定額制のフォントサービスを利用するのが便利です。

モリサワのMORISAWA PASSPORT、フォントワークスのLETSなど、日本語、欧文をはじめ多数のフォントを使えるサービスが存在します。

でも、これらのサービス、お値段は一年あたり数万円から。

個人でこれを使おうと思うと、ちょっと手が出しにくい、という人が多いのではないでしょうか。

ところが、2018年3月1日、いままでの常識を覆すようなサービスがフォントワークスから登場しました。

mojimo-manga – あのマンガの、あのアニメの、あのフォントが使える!

あのマンガの、あのアニメの、あのフォントが使える! アニメやコミックなどで見かけない日はない、Fontworksの書体たち。 デザイナー・イラストレーターの方をはじめ、趣味で創作活動を行っている方、 同人誌を制作されている方に最適な書体をセレクト。 36書体が、定額制で自由に使えます。 『新世紀エヴァンゲリオン』のタイトルカットなどで特徴的に使用され大反響を呼んで以来、 …

mojimo は「ちょうどいい文字をちょうどいい価格で」をコンセプトに、用途ごとに提供するフォントの数を絞ることで、低価格のフォントサービスを実現しようというものだそうです。

たとえて言うなら、スカパー!の多チャンネル放送サービスで、見たいジャンルだけのパック契約をするような感覚でしょうか。

第一弾の「mojimo manga」は、フォントワークスの強みでもある、マンガやアニメ作品で良く使われる36のフォントを提供しています。

「新世紀エヴァンゲリオン」で有名になったマティスや、まちなかでその文字を見ない日はないといっていい筑紫書体シリーズなど、リストを見るだけでも垂涎ものです。

最適な書体・価格で提供するフォントサービス「mojimo」をスタート シリーズ第一弾は同人誌制作を応援する、アニメやコミックに最適な「mojimo-manga」を提供|お知らせ|mojimo

フォントワークス株式会社(本社:福岡県福岡市、代表取締役社長CEO:原田 愛、以下「フォントワークス」)は、特定の用途やシーン、利用者に最適な書体・価格でご提供する、新しいフォントサービス「mojimo(モジモ)」をスタートし、2018年3月1日(木)より、第一弾の製品として、アニメやコミックに最適な書体をセレクトした「mojimo-manga(モジモマンガ)」 の提供を開始します。 …

これでお値段は、なんと年間3600円!

本家のLETSと比較してみましょう。

入会金 年会費 日本語フォント数 欧文フォント数 (日本語1フォントあたりの価格)
LETS 30,000円 36,000円
*3年契約で割引あり
525書体 5723書体 69円
mojimo manga 0円 3,600円 36書体 0書体 100円

サービス内容は2018/03/01現在、価格は税抜。

LETSには日本語・欧文以外の各国語フォントなども多数登録されていますが、日本語1フォントあたりの価格だけで単純計算しても、お得感はそのままに、トータルの値段を抑えたのがmojimoということでしょうか。

(2018/03/04:1フォントあたりの価格計算が盛大に間違っていたので修正しました)
(2020/12/31:mojimoでは各フォントで使えるウェイトのバリエーションが少ないという違いもあります)

なお、フォントを使える範囲である使用許諾が若干異なるようなのでご注意ください。

LETSとの主な違いは、ゲームやアプリに用いることはNGのようです。印刷物や、Webサイトに画像として表示することはどちらもOKです。

mojimo manga はまさに同人誌を作る人をターゲットにしているようですが、趣味で自主サークル用のパンフレット・POPなどを作りたい、という用途にもうってつけだと思います。

あまりに魅力的だったので、さっそく契約してみました。

どんなことに使おうか、いまから楽しみです。

契約までの流れは、次回の記事でご紹介します。

もっと身近に定額フォントサービスを使える mojimo 、今後の展開も楽しみです。



個性あふれる、欧文書体の世界 – Typography 11

年二回刊、文字をテーマにした雑誌「Typography」。

2017年5月に発売された11号の特集は「欧文書体を使いこなす」でした。

欧文書体は、アメリカ・ヨーロッパをはじめ世界各国で使われる、ラテン文字(アルファベット)を中心としたフォント。

いわゆる漢字文化圏とは成り立ちから異なるため、ひとくちに同じ文字といってもさまざまな違いがあります。

そのひとつが、「プロポーショナル」という考え方です。

日本語フォントは、基本的に一文字ごとに同じ幅と高さをもっています(等幅といいます)。

だから、同じ文字数であればどんな文章でも、幅がきれいに揃います。

 

では、同じことを欧文フォントで行うとどうなるでしょう。

Menlo というのは、プログラミングで使われることを想定して、macOSに搭載されている等幅フォント。

ソースコードなどのプログラムを書く際には、一文字ごとの幅が揃っているほうが都合がいいのですが、文章としてみると読みにくい。

r の間が不自然に空いていたり、LとMの間が詰まっていたりして、むしろ不揃いに見えてしまいます。

 

そこで、欧文フォントでは、アルファベットごとに文字の感覚が違うプロポーショナルフォントが基本になっています。

このように、r や I のように細長い文字は幅を短く、M は逆に幅を長くして、プロポーション良く文章を組むことができます。

さらに、f と i など特定の文字がくっつく「合字(リガチャ)」のように、文字を美しく見せるため、さまざまな工夫が凝らされています。

 

特集の中に、歴史ある欧文フォントメーカー・Monotype社の小林章さんのインタビュー記事があります。

小林さんが新しく開発した欧文書体「Between」と、Monotypeからはじめてリリースされる日本語書体「たづがね角ゴシック」。

どちらのインタビューからも感じられるのは、文字ひとつひとつの個性を大事にしているということ。

Between では、3種類のフォントそれぞれで、文字の形や幅が異なりつつ、リズム感を生み出している。

たづがね角ゴシックは、現代日本の時代背景をふまえて、アルファベット・ひらがな・かたかな・漢字が自由に組み合わさっても読みやすいことを目指している。

しかも、文字の太さ(ウェイト)も10種類用意されているので、ほかのフォントとも組み合わせて使うこともできます。

今回の付録には、それ以外にもさまざまなフォントのマッチング例を紹介する「Fontworks × Monotype 和文・欧文フォント組み合わせガイドブック」があり、こちらもあわせて楽しめます。

 

アルファベットは、日本語よりも文字の数が少ないとはいえ、けっして単純ではありません。

人それぞれに、違う個性があるように。

けれど、チームとして力を合わせ、ひとつの目的に向かっていけるように。

それぞれの文字のもつ個性を組み合わせることで、より幅広い魅力を生み出すことができます。

 

あなたの好きなフォントは? – 4月10日はフォントの日

昨年・2016年もご紹介した、フォントの日

今年は、アドビシステムズ株式会社によって、日本のさまざまな記念日を登録する日本記念日協会に登録されたそうです。

アドビ クリエイティブ クラウド on Twitter

アドビ はフォント業界のさらなる発展を願って4月10日を #フォントの日 に制定。4と10で「フォン(4)ト(10)」と登録したのはホント!お好きな #源ノ明朝 をご返信の方に抽選で限定てぬぐいを差し上げます。人気は #ぷ https://t.co/vkNgyEEzhP

そんなAdobeに先駆けてフォントの日を提唱していたフロップデザインさん。

フォントの日

フリーフォント、イラスト、ロゴデザイン、シルエット素材、無料写真素材集。1万種類の無料フリーダウンロード素材集やフリーフォント。グラフィックデザイン事務所。

今年も期間限定でオリジナルフォントの無料ダウンロードを行っていたり、Twitterで好きなフォントをつぶやくハッシュタグを作られていたりします。

フロップデザイン on Twitter

一目惚れしたフォント。DSあかり!今日はフォントの日なので好きなフォントをつぶやこう。 #フォントの日 #好きなフォント名をつぶやく

さて、では、わたしの好きなフォントは…?

ぱっと思い浮かぶのは、フォントワークス・藤田重信さんの筑紫書体

 

あるいは対照的に「水のような、空気のような」書体を目指す字游工房・鳥海修さんの游書体

これらは、フォントだけでなく、そのフォントを作った人自体にも魅力を感じているといえます。

また、同じフォントワークスでも、新世紀エヴァンゲリオンという作品に使われたことで思い入れのあるフォントがマティスです。

 

わたしにとって、フォントは単なる文字ではなく、そこからものがたりを感じとることができるもの。バックグラウンドがあることで、その魅力が何倍にも増していきます。

 

もちろん、誰が作ったものかとそれほど意識していなくても、デザインとして好きなフォントもたくさんあります。

(たとえば、丸明オールド解ミンなどのいわゆる丸明朝体)

 

小説で言えば、「筒井康隆作品が好き」と作家ごと好きになるパターンもあれば、「時をかける少女」だけが好きという人もいるようなものでしょうか。

 

「SFが好き」「ミステリーが好き」と本好きの間でも好みのジャンルがわかれるように、自分ならゴシック体と明朝体のどちらが好きか、と考えるのでもいいし。

まちなかのロゴや本の表紙の中から、特定の気になるフォントを見つけてくるのでもいい。

そうして好きなフォントを見つけたら、それを作った人(会社)が他にどんなフォントを作っているか調べることで、より世界が広がっていくことでしょう。

 

 

本を手にとる誰かを待つ仕事 – 本屋、はじめました

あなたは、月に何冊本を読むでしょうか。

何回、本屋さんに通うでしょうか。

 

いまや本を買うのには、コンビニ、ネット通販、電子書籍と、さまざまな方法があります。

それでも、本屋さんで実際に本を手にとってあじわう体験は、かけがえのないもの。

そんな想いに、すこしでも共感をおぼえてもらえるなら、ぜひ手にとってほしい本があります。

 

著者は、全国チェーンの大手書店であるリブロに長く勤めた辻山良雄さん。

名古屋店時代には、地元の本屋・雑貨屋と共同で、本でまちをつなぐイベント、ブックマークナゴヤを立ち上げています。

 

ブックマークナゴヤ  BOOKMARK NAGOYA OFFICIAL WEBSITE

BOOKMARK NAGOYA(ブックマークナゴヤ)名古屋を中心に大型新刊書店や個性派書店、古書店、カフェや雑貨店などが参加。街のあちこちで本に関連したイベントやフェアを開催する、『本』で街をつなぐブックイベントブックイベントです。

わたしにとっても「本屋」というものが、お店単独ではなく街と切り離せない存在であるという視点に気づかされたイベントです。

このイベントを通して知ったお店も多く、いまも毎年開催を楽しみにしています。

 

本書は副題に「新刊書店Title開業の記録」とあるとおり、辻山さんがリブロから独立し、2016年に東京の荻窪に自分のお店をオープンするまでの経緯と、開業後の様子までが描かれます。

本屋 Title

2016年1月、東京・荻窪の八丁交差点近くにオープンした新刊書店・Title(タイトル)。1階が本屋とカフェ、2階がギャラリーです。

事業計画や営業数値といった具体的なデータも交えながら、なぜこの時代に本屋を開くのかという想いが、静かに、それでいて力強く伝わってきます。

 

本屋の仕事は「待つ」に凝縮されていると辻山さんは言います。

本屋の毎日の光景として真っ先に思い浮かぶのは、お客さまで賑わっている店頭ではなく、まだ店内に誰もいない、しんとした景色です。静まりかえっていますが、本はじっと誰かを待つようなつぶやきを発しており、そうした声に溢れています。

 

そして、そんな本に出会うために、本屋を訪れる人がいる。

 

本を読む人が減っている、街の本屋が少なくなっていると言われ続けている中、それでも本屋さんで本を買いたい人は必ずいます。

 

実際に、第1回ブックマークナゴヤが開催された十年前と比較しても、本屋さんに求められるものは変わりつつあります。

けれど、その芯にあるもの、本を誰かに届けたいという想いはずっと変わらないでしょう。

その上で、不特定多数の「みんな」ではなく、特定の人に向けて届けるため、平均的な品揃えの良さではなく、ここでしか出会えないような本を置き、その瞬間でしか体験できないイベントを開催する。

本屋に限らず、誰のために仕事をするのか、なんのために人生を生きているのか、というテーマにも通じるものがあります。

 

 

最後に、この本自体について。

奥付に、使用されたフォントや用紙の種類までが記載されていたりと、細かいところまで実に丁寧につくられています。

ちなみに表紙のタイトル(店名ではないほうの)に使われているのはフォントワークスのニューシネマA

 

さらに、カバーを外すと、本屋Titleのある荻窪の地図が現れます。

いつか、この地図に描かれたまちを実際にあるき、本屋Titleを訪れる、その日が楽しみになりました。

 

写植の時代から、未来の書体へ – 今田欣一の書体設計「書物と活字と」展

パソコン上で文字を扱う、デジタルフォントが普及する前の時代。

活字のほかに、写真の技術を応用して文字を印刷する技術がありました。

それが写真植字、写植。

そんな写植の時代から現在まで活躍されてきた書体設計士のおひとり、今田欣一さんの書体にふれることができる展示が大阪で開催されていました。

大阪DTPの勉強部屋 ” 今田欣一の書体設計「書物と活字と」展示会

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会場はJR環状線天満駅、または地下鉄堺筋線扇町駅の近く、カンテレ扇町スクエア。

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この3Fにあるメビック扇町は、さまざまなクリエーターによるイベント・展示のためのスペースになっています。

ちなみに別会場では、全国のまちの人がつくった小冊子・ポストカードなどを展示する「わたしのマチオモイ帖展」が2017/1/29(日) まで開催中です。

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こちらも一冊一冊じっくり読み込んでいると、いろんなまちを旅した気分になる、すてきな空間でした。

木津川アート行ってみたい…!

木津川アートマガジン

京都府木津川市で隔年開催。アートの力でわたしたちのまちに光をあてる芸術祭、木津川アート。

 

さて、本題に戻って、「書物と活字と」展。

写研の社員時代から、独立されてからの今田欣一さんの書体が一堂に展示されていました。

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写研時代の代表作のひとつが、ボカッシイ

[航海誌] 第14回 ボカッシイ: 文字の星屑

[航海誌] 第14回 ボカッシイ,タイプフェイスデザイン事始:タイポグラフィ前夜/貘書体/白澤書体/文字する時間タイプフェイスデザイン漫遊:航海誌/福岡の夢/東池袋KIDS/コンペは踊ろう/筆のバラードタイプフェイスデザイン探訪:偉人伝/見聞録

ゴシック体の中身を、45度の斜線で表現するという、いま見ても画期的なデザインです。

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講演会では、漢字のハネを読みやすくするために斜線の入れ方や太さに苦労された点などを聞くことができました。

 

また、LINE BLOG で使えるフォントとして紹介した、マティスみのりやまと

LINE BLOG - マティスみのりやまと

このみのりやまとも、フォントワークスのマティスと組み合わせて使うための「かな書体」(ひらがな・カタカナフォント)として、今田さんが独立後に制作されたものだそう。

(当時は別会社のフォントワークスインターナショナルから依頼されたもの)

 

さらに今後、60代、70代の代表作として設計される予定だという書体までが紹介されていて、その計画性にも驚きの声が上がっていました。

 

主催の大阪DTPの勉強部屋では、わたしよりはるかに文字に詳しく、文字愛にあふれる方々と交流できたりと、いろいろな意味で勉強になりました。

 

印象的なお話が、書体は一文字ずつ作っただけでは作品とは言えず、文章や本のタイトルなどで組まれて、人につたえるものになってはじめて完成するということ。

 

多くの人は意識せず、完成された文章だけを見ていることでしょう。

でも、その奥には、一文字一文字に命を吹き込む、フォントを設計する人がいて、そのフォントを選んで組む人がいる。

 

あらためて、ひとりでも多くの人に、そんな文字の奥深さを知ってもらいたいと感じる時間でした。