日本全国に存在する、さまざまなまち。
かつて多くの人を引き寄せた観光地でありながら、少しずつ時代とずれていってしまったり、あまりにも先鋭化した方向へ突き進んでいったり。
そんなスポットを「終末観光」という視点で取り上げてきた唯一無二の雑誌が、八画文化会館。
八画文化会館 : 廃墟や珍スポットなど、日本各地の奇妙なモノを発見するインディーズ出版社、八画出版部
廃墟や珍スポットなど、日本各地の奇妙なモノを発見するインディーズ出版社、八画出版部のウェブサイト。
2016年のイベント、よきかな商店街では、編集部のお二人にお会いし、創刊号からの愛読者であることをお伝えすることができました。
そのイベントは「まちの文字図鑑 よきかな ひらがな」(大福書林)の松村大輔さんとともに、日本の商店街の風景を切り取っていくというものでした。
その後も、Twitterに次々と独自な視点でハッシュタグと写真の数々が投入されてゆきます。
二年半ぶりに刊行されたVol.5「駅前文化遺産」は、その結晶ともいえるものでしょう。
東京・大阪・名古屋のような大都市の駅はあえて外し、少し寂しさを感じる、いわゆる地方都市の駅前風景を、「文化遺産」として紹介していきます。
名古屋ではありませんが、愛知県からは、あいちトリエンナーレ2016の舞台にもなった東岡崎駅(岡ビル百貨店)なども掲載されています。
かつては屋上遊園地があり、昭和の終わりごろまで全盛期を誇った岡ビル百貨店。
いまは神社になっているという屋上には通常入れませんが、2F、3Fと階段を上がっていくことで、往時の片鱗を味わうことができます。
会期中はアート作品が展示されていた3F、建物隅の「キッチンこも」だけが現役営業中。
「スパゲッチ」という表記も気になります。
この岡ビルのように、「建設当時は地域一の高さを誇った」とまで語られながら、いまではまわりの高層マンションに後塵を拝してしまっているような中低層ビル。
盆栽を中心に据えた駅前ロータリーに、謎のローカル銅像。
Googleマップやスマートフォンのない時代には必須だった、名所旧跡の描かれた駅前地図。
過疎化、老朽化というネガティブなイメージばかりではなく。
ノスタルジー、なつかしさといった過度の美化も、そこにはなく。
淡々と紹介される駅前の光景が、なぜかとても魅力的。
わたしもかつて、地方都市に住んでいたことがあって、まさにこの雑誌に紹介されるような駅前風景を毎日目にしていました。
そのときにはまったく気づかなかった、あるいはマイナス要素として見ていたものが、いまになって新たな意味づけが与えられたという驚きがあります。
もちろん、そこに暮らす住人にとっては、不便さを感じることも多い街並みであって、やがては現代的な駅前に塗り変わっていくことでしょう。
それも、まちの宿命。
でも、だからこそ。
過ぎゆく時代の記憶を、地道に記録にとどめていく、このような試みがとても貴重なものだと感じます。