名古屋・伏見の、見逃したくないアートスポット

あいちトリエンナーレ2016が開催中の愛知県。

その中心地・栄から地下鉄で一駅、伏見駅付近にも、トリエンナーレに関連したアートを楽しめるスポットがたくさんあります。

 

まずは地下鉄鶴舞線の改札口近く、6・7番出口前にある、伏見駅旧サービスセンター。

aichi_triennale_fushimi-12

ここでは、トリエンナーレの映像プログラムとして短編映画が上映されています。

aichi_triennale_fushimi-11

上映作品は愛知芸術文化センターと重複しているようですが、閉鎖されたサービスセンターの、ほの暗い空間から浮かび上がる映像は独特の雰囲気があります。

ほとんどの人が気づかずに前を通り過ぎていく中、トリエンナーレのことを知っている人だけが足を止めて見入るというのも、なんだか象徴的。

向かいは、地元・愛知で栄光をきわめたコンビニ、サークルK。

次回、あいちトリエンナーレ2019のころにはファミリーマートになってしまっているのか、それともまた違う施設になっているのか…。

 

ところで、伏見駅にはもうひとつ、東山線ホームにも改札口があります。

こちらは、伏見地下街へと直通していて、前回のトリエンナーレ2013での作品、長者町ブループリントが残されています。

aichi_triennale_fushimi-2

もはやアートなのかそうでないのか、境界があいまいになってしまう素敵な空間。

aichi_triennale_fushimi-3

タイポさんぽの視点でも楽しめます。大胆な「ン」!

aichi_triennale_fushimi-1

これを見て、アートのほうに目がいく人と、それ以外の部分に目がいく人に分かれそうです。

 

地下街から外に出て、そのまま北に向かうと長者町商店街。今回は紹介しませんが、いくつもの会場でアート作品が展示されています。

逆に南に向かうと、電気文化会館があります。

電気文化会館 | 中電不動産株式会社
aichi_triennale_fushimi-6

名古屋市美術館に隣接する名古屋市科学館も有名ですが、こちらは中部電力グループの中電不動産が運営する文化施設。

ここ伏見に、かつて中部地方初の発電所が建設されたことにちなんで、1986年に建設されたそうです。

4階までは家族連れでにぎわう「でんきの科学館」が、5階に上がると急に雰囲気が変わります。

aichi_triennale_fushimi-10

このギャラリースペースで、2016/09/11(日)まで開館30周年を記念して「THE NEXT」が開催中。

地元画廊が選ぶ若手アーティストによる現代アート展ということで、わたしのようにアートには興味あるけど画廊はちょっと敷居が高い、という人にも楽しめるものでした。

 

aichi_triennale_fushimi-8

いいビルにつきもののいい階段なのに、網がおしい!

 

おまけ。電気文化会館・名古屋市科学館では、10/1(土)・10/2(日)に「科学の祭典」というイベントが行われるそう。
思わず気になってしまうフォントはフォントワークスのスランプDBっぽい。

aichi_triennale_fushimi-7

 

 

自分だけの生き方、働き方を考える – 自分をいかして生きる

今回は、「ナツヨム」という文庫フェアで知った一冊をご紹介。

 

夏と言えば、各出版社が競うように行う夏の文庫フェアが定番になっています。

その中にあって「ナツヨム」は出版社、書店など本にかかわる人々が共同で本を推薦することで、ちょっと変わった切り口のラインナップが実現しています。

大手チェーン店だけでなく、街の本屋さんも参加していて、帯やしおりも手作り感があるのがポイント。

IMG_0061

こちらを購入したのは名古屋市瑞穂区の七五書店さんですが、帯の推薦文は丸善名古屋本店の書店員さんによるもの。

裏側にも推薦文があるのですが、著者の文章についてこう表現されています。

西村さんの文章には、ずっと自問自答を粘り強く続けてきた人の優しさがにじみ出ていて、読んでいてスッと心に入ってきます.

 

わたしも、読んでまったくおなじ印象を受けました。

 

人によって文章の好みはそれぞれだと思いますが、ある種の文章には、読んでいてここちよく、自然と胸に響くふしぎな魅力があります。

わたしにとって、この方の文章はまさにそれで、書いてある内容以前に、そのあり方がとても共感できるものなのだと思います。

 

たとえば、本文には、仕事とは海に浮かぶ島のようだという話があります。

「浮かぶ」といいながら、じっさいには島は海の上にある山。頂上だけが見えているけれど、その下には山裾が広がっています。

そうやって他人に見える仕事=成果だけでなく、それを支える技術や知識、価値観、その人だけのあり方が全体として本来の「仕事」をかたちづくっている、と西村さんは言います。

 

成果や知識は取り替え可能でも、価値観やあり方は自分だけにしかつくれない。

この本をつくるという西村さんの仕事も、こうやって見えない部分がしっかり支えているから、文章がとても自然に心に入ってくるのではないでしょうか。

そんなことを考えながら、ページをめくっていきました。

 

西村さんは、会社を辞めて独立されるまで、大きな会社での働き方しか知らないことに気がついたと書かれています。

わたしも、セミナーやイベントに参加するようになってはじめて、企業に勤めている人だけでなく、一人で働いている方、あるいは会社員としての仕事とは別のさまざまな活動をされている方に出会いました。

そんな方の話を聞くたびに、生き方・働き方というのはもっと自由で、多様であっていいのだということを思います。

 

とはいえ、けっして、誰もが独立して働かなければならない、好きなことを見つけて仕事にしなければいけない、というものでもありません。

そうやって焦ることも、この本から受け取るメッセージとしては違う気がします。

少し長くなりますが、引用します。

〈自分の仕事〉は余所にあるわけでも、いつか天から啓示のように降ってくるわけでもなく、すでに今ここにある。「青い鳥」でメーテルリンクが描いたように。しかも時には、「まるで駄目」とか「イケてない」と感じてしまうような部分に。

あくまで静かに、自分の内面を見つめることで、自分だけの生き方を見つけていく。

もちろん、その生き方は自分だけで閉じることなく、まわりの人と結びあい、ひろがっていく。

 

最後に、この本をわたしの手元に届けてくれた、著者、編集者、書店員、それぞれの「仕事」に感謝を。

 

京都タイポさんぽ

よきかな商店街イベントで、ひさびさに訪れた京都。

イベントの前後にも、文字やフォントをテーマにまちあるき・ミュージアム見学をしてきたので、何回かに分けて紹介していきます。

 

スタートは東海道新幹線京都駅、見慣れたJR東海のスミ丸ゴシックから。

kyoto_typo - 1

 

kyoto_miyage - 1

さっそく駅構内のお土産屋さんで、良い文字がおでむかえ。角張った文字は、視覚デザイン研究所のラインGかと思ったら、ちょっと違うみたい。

kyoto_miyage -2

こちらは丸明オールドでしょう。元のフォントにはない筆順が再現されているのがおもしろい。

kyoto_miyage - 3 kyoto_miyage - 4

どちらも、大きい看板はオーソドックスな明朝体・ゴシック体なのに、その下の文字がかわいい。

ちなみに、「こたべ」は定番の生八つ橋・おたべの子供版。帰りにお土産に買おうと思ったのに忘れました(^^;

こたべ 夏 京都銘菓「おたべ」お菓子

こうなると、京みやげフォントを制覇したくなってきますね!

kyoto_miyage - 8

kyoto_miyage - 7

京みやげ特集でした。

 

京都駅から外に出ると、駅ビルの壁面に、ホテルグランヴィア京都のロゴが良い具合に映りこみ。

kyoto_miyage - 5

そのまま地下鉄に乗り、烏丸御池まで。

kyoto_typo - 2

kyoto_typo - 3

京都市営地下鉄の駅名標、黒地にオレンジでかっこいい。

kyoto_typo - 4

あちこちに貼られているポスター。乗客増加を目指して、「地下鉄に乗るっ」というキャンペーンが行われているようです。

 

 

kyoto_typo - 5

駅ナカの大垣書店 Kotochika 店では、コラボブックカバーも配布中。
ちなみに大垣書店のロゴはダイナコムウェアのDF隷書体ですね。

kyoto_typo - 6

NHK京都の黒猫も気になりますが、古い乗り場案内の黒テープで消された文字も気になってしまう性分。

三条通を東へ進みます。このあたりは近代建築もみどころ。

kyoto_typo - 7

中京郵便局。東海地方のみなさん、「ちゅうきょう」じゃなくて「なかぎょう」ですよ!

kyoto_typo - 8

そして、旧日本銀行京都支店。現在は京都文化博物館として使われています。
それにしても、赤レンガには青空がよく似合いますね。

kyoto_typo - 9

奥に進むと、中庭部分がテラスになっています。

kyoto_typo - 10

なんだこの子は!

kyoto_typo - 11

実にいとおしいCOFFEEの看板。これを見たら、入らないわけにはいきません。

kyoto_typo - 12

前田珈琲さん。他の店舗も、呉服店や小学校を改装した建物があるようで気になります。

kyoto_typo - 13
京都文化博物館には、紙もの文具・雑貨を取り扱う楽紙舘さんも入居しています。

kyoto_typo - 14

三条通から一つ上がり、姉小路通り。ぼちぼちいきましょう。

kyoto_typo - 15

寺町通まで来ました。ここにもDF隷書体が使われています。

 kyoto_typo - 17

kyoto_typo - 16

寺町商店街の看板も、ひとつひとつ見飽きることがありません。

「ヤマモト」のロゴとしての完成度の高さといったら!

時間を忘れて楽しめそうな、京都のまちあるきでした。

このあと、祇園まで行って漢字ミュージアムを訪れたのですが、それは次の記事で。


文字と路上観察が出逢う夜 – よきかな商店街

以前もブログで紹介した、まちあるきを文字で楽しむ本「まちの文字図鑑 よきかなひらがな」。

その出版を記念し、去る2016年8月27日、「よきかな商店街」というトークイベントが開催されました。
よきかな商店街
著者の松村大輔さんに加え、ゲストは八画文化会館の石川春菜編集長・酒井竜次さん。

八画文化会館とは、「終末観光」と銘打ち、日本各地の変わったスポットを紹介し続ける雑誌出版社。

八画文化会館 : 廃墟や珍スポットなど、日本各地の奇妙なモノを発見するインディーズ出版社、八画出版部

名古屋を代表する本屋さん、ちくさ正文館で創刊号を手にとって以来、毎号の愛読者なのです。

これはぜひとも行かなければ…! ということで、イベントに参加してきました。

 

会場は京都の本屋・誠光社さん。

kyoto_yokikana - 1

夜の19時、なんとも風情のある路地の一角で、イベントはスタート。

対談形式で、それぞれが撮られた商店街などの文字(ロゴタイプ)を鑑賞するというスタイルです。

 

さっそく松村さんから、フォントとロゴの違いについて解説される一幕も。

 

そのお店のためだけに、その看板で使われる文字だけをデザインしたのがロゴ。だから、基本は一点もの。

フォントは、いろいろな用途に使えるように一通りの文字を揃えているので、同じフォントで作られた看板をあちこちで見ることができます。

 

このブログも成り行き上、まちの文字に関する記事カテゴリを「フォント」にしていますが、そこはご容赦ください(笑)

 

何故か味のある文字が多いクリーニング美容室

kyoto_yokikana - 2

 

そのお店の業態や店名にぴったりのデザインをしたのが、どんぴしゃタイポ

kyoto_yokikana - 4

kyoto_yokikana - 5

 

商店街の入口にある、栄光のアーチ

kyoto_yokikana - 3

地元・名古屋では定番ネタ、「車道」と書いて「くるまみち」と読む地名。

 

さらに、バーやスナックの集合看板・スナック団体戦など、まちあるきをより楽しめる概念の数々がつぎつぎと紹介されていきます。

少し時間をオーバーして、惜しむらくもイベントは終了。

 

しかし、本当のお楽しみはここから!

イベント終了後、著者の松村さんや八画文化会館のお二人にご挨拶。

本に「よきかなひらがな」のスタンプも押させていただきました。

kyoto_yokikana - 6

お話をしていると、なんとその場にいた参加者の方とともに、二次会(懇親会?)にお誘いいただけることに。

 

参加者にも、Twitterやサイトなどで、いろんな活動をされている方が多くいて、自然とお互いに自分の撮った写真を見せ合う流れに。

路上観察学、文字、フォントなど、少しずつ視点が違いつつ、同じものを見て、楽しむことができる。

そんな方々が「よきかな商店街」というイベントをきっかけとして一堂に会する。

きっと一生思い出に残る、刺激的な一夜でした。

著者の方々、出版の大福書林さん、そして参加者のみなさん、ありがとうございました!

 

と、ここでお礼がわりに、わたしの視点で、京都で見つけた文字を載せようかと思ったのですが、あまりに長くなりすぎるので別記事にします(^^;

かわりに、その場でお見せできなかった(京都以外で撮った)お気に入りの写真を。

DSCN2941.JPG

丸ゴシックで組まれた「カナモノ」と、「の」を丸く囲む角ゴシックの「カ」。

まさに、イイカナとよきかなの夢のコラボレーション。

 

yokikana - 2

ロマンチック美容室、そして「シグ」のリガチャ(合字)。

 

 

他人だから応援できる、自分だからがんばれる – 球場ラヴァーズ

ひさびさの広島偏愛シリーズ、今回は広島東洋カープを題材にした漫画「球場ラヴァーズ」をご紹介します。

野球漫画といえば、選手あるいは野球チームが主役というのが通例n。

でも、この作品の主役は、選手を応援するために球場に集まった観客。そのため「広島東洋カープ応援席マンガ」ともよばれています。まずは、その視点がおもしろい。

人のことだから応援するのよ(基町勝子)

 

野球とも、広島とも縁のなかった少女が、思わぬきっかけで球場に足を運び、熱烈なカープファンと出会うことで、それまでの生活が一変します。

まだ「カープ女子」ということばが世間を賑わす前、2010年から、主人公が交代しつつ、2015年のシーズンまでがリアルタイムに描かれます。

現実の通り、その間カープの優勝はなし。

選手だけでなく、応援席の彼女たちも、楽しいことばかりではなく、辛い現実も描かれます。

 

勝って負けて、おちこんで。

活躍できることもあれば、芽が出ないままのことも。

納得しがたい理不尽なことがあったり、奇跡とも思えるようなことが起こったり。

 

それはまるで、人生の縮図。

どんなプロ野球チームもそうだと思いますが、とくにカープというチームに焦点をあてることで、そのドラマティックな起伏が印象づけられます。

原爆の惨禍から、広島に球団をつくろうという運動がはじまり、初優勝まで25年。

そして迎えた黄金時代から、長く優勝から遠ざかった期間を経て、2016年、25年ぶりの優勝マジック点灯。

たしかにあるんだよな、振り返ればあの日だった!—って試合が。

たしかにあの日だった。あの日が今日につながった(松田美央)

あの日、あの場所に行かなければ、出逢わなかった人があった。

できなかった体験があった。

あの日、前に進むことを選んだからこそ、いまの自分があり、そして未来につながっている。

 

カープを応援し、自分自身もがんばろうとする主人公たちの姿には、野球に興味がなくても、カープファンでなくても、きっと胸を打たれることでしょう。

そして、思わず球場に行きたくなってしまうこと請け合い。

 

旧広島市民球場は、もう訪れることはできないけれど。

マツダスタジアム、いつの日にか行ってみたいです。