【追記】2023年、ちくさ正文館は惜しまれつつ閉店しました。この記事はアーカイブとして、当時の文章をそのまま残しておきます。
「喫茶モノコト」は大須の店舗で営業中です。
中日本、中京地区という異名をもつように、東京と京都・大阪の中間に位置する名古屋。
東西の文化の中継地点として、互いに交じり合いながら、独特の文化がはぐくまれてきました。
そんなまちの文化拠点のひとつといえば本屋。では、名古屋の本屋さんの中心といえばどこでしょうか。
わたしにとって、それは名駅のある中村区でもなく、栄のある中区でもなく、千種(ちくさ)区にあります。
栄から地下鉄東山線で2駅。
そこはまた、JR東海・中央本線とも交わる中継点。
そこに、ちくさ正文館という本屋さんがあります。
駅前のターミナル店は予備校も多いので、学生向けの参考書や漫画・雑誌にスペースをとった品揃えです。
けれど、ちくさ正文館といえば、そこから少し歩いた本店。
このお店については、いままでも多くの本で語られています。
わたしがこの本屋さんをはじめて訪れたのは、ずいぶん前のこと。
でも実はそのとき、このお店がそんなに有名だということを知らなかったのです。
普通にまちあるきをしていて、普通に本屋さんがあると思って入りました。
そして圧倒されました。
こんな品揃えの本屋さんは、後にも先にも、見たことがありません。
ベストセラーが置いていないわけではなく。
買いたいと思って探していた本が必ず見つかるわけでもなく。
けれど、ここに来れば、ここに来ないと出会えなかったような本に、必ずといっていいほど出会える。
それが、実にさりげなく、押しつけがましくなく置かれている。
まるで凪のような、あるいは台風の目のような、その静かな空間のまわりに、大きなエネルギーが渦巻いている。
その意味で、ここが名古屋の中心であると思うのです。
そして、つい先日、このお店の二階が改装され、新しいスペース「喫茶モノコト〜空き地〜」がオープンしました。
プレオープン企画として、あいちトリエンナーレ2016でも作品を展示されていた、岡部昌生さんと鯉江良二さんによる「ヒロシマの礫」の展示が行われていました。
広島の被爆した土と、こねられた団子。
港千尋監督の言葉に添えられた「あとはこれをどこに投げるかだ!」というキャッチフレーズが印象的です。
トリエンナーレがはじまる前にも、同じ場所で、岡部さんの展示が行われていたことを思い出します。
投げられる日を待っていたかのように、静かに時を刻んでいた空間。
リニューアルされて、喫茶店となりながらも「空き地」というキャプションがつけられた場所で、これから何が起こるのか。
11/18(金)〜11/30(水) は写真家・キッチンミノルさんと詩人・桑原滝弥さんの「メオトパンドラ」出版記念展が開催中。
わたしが訪れた際は、まだ定休日など諸々未定だと伺いましたが、徐々にメニューも増やして喫茶店としても充実していくそう。
本屋として、喫茶店として、これからますます楽しみな場所です。