2021年、不確実な世界を生きてゆく10冊+読書マップ

2021年の大晦日です。

アフターコロナを叫ぶ本は多くあれど、ものごとは年の区切りのように〈はじまり〉と〈おわり〉をはっきりつけられるものなのだろうか、と思っています。
そんなはっきりしない状態が不安だからこそ、人は区切りや区別をつけたがるのかもしれません。

さて、そんな時代に読みたい本とは。
いつものように時流に乗りすぎず、新刊にこだわらず、今年読んで個人的に印象深かった本を取りあげます。

去年までの〈今年の本〉記事はこちら。

昨年から導入した〈読書マップ〉です。

一年ぶんをまとめると冊数が多すぎるので、それぞれのブロックごと、黄色の枠で囲った10冊を中心に紹介していきます。
ここに取り上げられなかった本を含めて、毎月の読書マップは note にて公開しています。

短歌

今年もたくさん短歌を読み、詠みました。

東直子・穂村弘「短歌遠足帖」

歌人のお二人が、ゲストとともにさまざまな場所を訪れ、短歌を詠む吟行の様子を一冊にした本です。

なかなか外出がままならない時期もありましたが、個人的にも実際に吟行ツアーに参加したり、そうでなくても訪れた場所をテーマに短歌を詠むのは本当に楽しく、思い出の解像度も上がります。

この本にも登場する歌人の岡井隆さんは2020年に亡くなられました。
加藤治郎さんによる「岡井隆と現代短歌」(短歌研究社)で、その業績と現代短歌史を概説することができます。

新鋭の歌人としては寺井奈緒美さん「アーのようなカー」(書肆侃侃房)、工藤玲音(くどうれいん)「水中で口笛」(左右社)などが印象にのこりました。ともに日常エッセイ的な文章も楽しい。

科学・数学

ティ・カップに内接円をなすレモン占星術をかつて信ぜず

杉崎恒夫「食卓の音楽」六花書林

こちらは天文学者でもあった杉崎恒夫さんの歌集「食卓の音楽」冒頭の一首です。

科学と詩的世界は意外に親和性がよいのか、岡井さんは医学部出身、永田和宏さんも短歌と生物学の両方で顕著な業績をあげられています。

タイトルつながりでマーカス デュ・ソートイ「素数の音楽」も読みたい。

「ネコはどうしてわがままか」は、動物行動学者・日高敏隆さんの名エッセイです。
あっ、ネコが塀の上を歩いているので、あとで追いかけましょう。

「三体問題」(ブルーバックス)はSF小説の元ネタにもなった数学・天文学上の難題に挑む人々の400年の歴史を描きます。

カルロ・ロヴェッリ「すごい物理学講義」

2021年7月の読書マップ – 人生と科学の意義 でも取り上げたように、不確かだが「目下のところ最良の答えを教えてくれる」科学の本質を知ることができます。

コトバと心

「新薬という奇跡」は、まるでギャンブルのような成功率の創薬に挑む人々のものがたり。

医学は科学でもあり、人の心身という不確実なものを相手にするものでもあります。

春日武彦「奇想版 精神医学事典」

穂村弘さんと精神科医・春日武彦さんの対談本「ネコは言っている、ここで死ぬ定めではないと」から飛び出したネコを追って、春日さんの本を何冊か読みました。独特の鬱屈感ある文体が癖になります。

中でもこの本は、精神医学的な見出し語を連想ゲームのようにつなげつつ、古今東西さまざまな事物を引用していく驚きの一冊で、読むのにものすごく時間がかかるのでご注意ください。

驚きといえば、書店でタイトルを見て手をとった「自閉症は津軽弁を話さない」は、その分析結果もまた意外なものでした。

川添愛「言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは『絶対に押すなよ』を理解できるか」

こちらもタイトル買い。もはやなんでもあり、場外乱闘的な言語遊戯の世界が楽しい。

古今東西の俳句を学習する〈AI一茶くん〉プロジェクトの軌跡をたどる「人工知能が俳句を詠む」。本当にすごいのは、AIの詠む俳句で感動できる人間です。

将棋

大川慎太郎「証言 羽生世代」

AIがトップ棋士の能力を上まわったと話題になったのは数年前のこと。
そんなAIとの共存が当たり前になった将棋界はいま、藤井聡太という天才の出現によって湧き上がっています。

藤井さんや羽生さんと同じく中学生で棋士になった17世名人・谷川浩司さんが、天才棋士を語る「藤井聡太論 将棋の未来」

その谷川さんを倒し史上初の七冠王を達成した羽生善治さんと、同年代の棋士たちへのインタビューをまとめたのが「証言 羽生世代」
平成の将棋界を席巻した羽生さんも、通算タイトル100期を目前に、ちょうど元号が変わるころタイトルを失います。
藤井さんのデビューもあって世代交代の印象を強くしますが、まだまだこの世代の層は厚く、これから50代、60代になってどんな将棋を見せてくれるのかも楽しみです。

 

そして、そんな羽生世代と戦い、なかなかタイトルに手が届かなかったものの、40代で史上最年長のタイトルを獲得した木村一基九段の言葉をまとめた「木村一基 折れない心の育て方」も、これから40代をむかえるわたしには、とりわけ心を打たれました。

生き方・働き方

「さよたんていのおなやみ相談室」

不確実な世界、いくつになっても人は迷うものです。

そんなときこそ読書が心の支えになってくれる、若松英輔「読書のちから」

何歳になっても自分のキャリアをやり直せる「ライフピボット」

それでも迷うあなたは「さよたんていのおなやみ相談室」へどうぞ。

関西に住む小学生の女の子が、人々の悩みを鋭く解決。手書きの文字とイラストもかわいい。
関西の人気番組「探偵!ナイトスクープ」が好きな人には絶対におすすめです。

歴史と人のミステリー

筒井康隆「ジャックポット」

SF・文学界の巨匠、86歳にしての最新短篇集です。コロナ禍を疾走する表題作はじめ、言語と文学の可能性をつきつめる筒井作品。
今年はとりわけ、いくつもの過去作品が復刊・重版され、まだ筒井康隆を知らない人に届いていくのが嬉しい。

「ジャックポット」中のとある短篇では、森博嗣さんや円城塔さんなど作家の名前が多く挙がります。
円城塔「文字渦」もまた文学(あるいは文字)の歴史に挑戦する小説。コロナ禍に文字渦(言いたいだけ)。

森博嗣「歌の終わりは海 Song End Sea」は英語タイトルが意味深。不気味なほどにリアルな世界観は、このままコロナ禍を描くシリーズになるのかどうか。

森博嗣さんに続くメフィスト賞受賞者の清涼院流水さんは近年、英訳者として活躍しています。
「どろどろの聖書」を読めば、キリスト教になじみがなくても(ないからこそ?)強烈なエピソードが頭に入ってきます。


日常と都市鑑賞

「日本建築集中講義」では建築史家の藤森照信さんと画家・山口晃さんが、全国各地の著名建築を訪ねて歩きます。二人の掛け合いも楽しい。

藤森照信さんや赤瀬川原平さんらによってはじまった〈路上観察学会〉は、路上観察や都市鑑賞という一大ジャンルを生み出しました。

東京オリンピック2020の開会式で話題になったピクトグラム。「世界ピクト図鑑」は、路上観察的な楽しみ方もできつつ、まちづくりやデザインの観点からも学びが多いです。

「水路上観察入門」は暗渠を研究する吉村生・高山英男のお二人による〈水・路上〉あるいは〈水路・上〉を楽しむ一冊。

パリッコ「ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある」

酒場ライター・パリッコさんが、コロナ禍で酒場に行けないなか見出した〈新しい日常〉。
時が止まったようなスーパーマーケットの2階。駄菓子の味くらべ。このこみ上げる叙情はいったい何なのでしょう。

藤井基二「頁をめくる音で息をする」

尾道にある、深夜営業の古本屋・弐拾㏈の店主によるエッセイ。装丁も含めて美しい本です。
瀬戸内・ひろしま・尾道という、そこに住まない者にとっては旅情あふれるまちでつづられる日常は、どこか非日常に存在がしみ出るよう。

そうして日常は続き、それでも詩情は消えない。

そんな世界を、生きてゆく。

2022年も、よいお年を。

2020年、越境する12冊+読書マップ

2020年も、まもなく終わりを迎えようとしています。

いまだ収束の兆しが見えないCOVID-19により、働きかたも、暮らしかたも大きく変わった一年でした。

そんな中で選ぶ〈今年の本〉。
直接的にコロナ禍を扱った本はなるべく避け、こんな時代だからこそ、本を通して外の世界を知る〈越境〉をテーマに12冊を選んでみました。

また、本をして語らしむる – 読書マップ(仮)のすすめで提唱した読書マップで本どうしのつながりを表し、関連書籍も加えてみます。

去年までの〈今年の本〉記事はこちら。

まずは読書マップから。

では、ひとつずつご紹介します。


0 総記

読書猿「独学大全」(ダイヤモンド社)

「アイデア大全」「問題解決大全」の著作もある読書猿さんの新刊です。

さまざまなジャンルを越境して、学び続けることの意義、その方法までが網羅されていて、ずっとかたわらに置いておきたい本です。

読書マップは、この本でも紹介されている日本十進分類法を参考に作成しました。

1 哲学

住原則也 「命知と天理」(天理教道友社)

日本唯一の宗教として知られる奈良県天理市。

そこを戦前に訪れた松下幸之助は、その壮大な都市計画と、それを生み出す精神に大きな感銘を受けたといいます。

それをヒントに、朝会・夕会や事業部制といった、それまでの産業界の常識を覆す試みを松下電器(現・パナソニック)に持ちこみ、戦後の発展につながります。

哲学(宗教)の分類に入れましたが、産業との越境という観点で楽しめる一冊です。

もう一冊、宗教家の釈徹宗さんと、歌人であり科学者の永田和宏さんによる対談「コロナの時代をよむ」(NHK出版)も越境の対談。
物語(ナラティブ)と情報(エビデンス)、どちらにもかたよらずに、両者の橋渡しをしようとするおふたりが印象的です。

永田和宏さんの歌人としての著作は 9 文学で紹介します。科学者としての著作も多く、未読だったことが悔やまれます。

3 社会科学

松村圭一郎「はみだしの人類学」(NHK出版)

いったん2を飛ばして3へ。

NHK出版の「学びのきほん」は、さまざまな著者による講義がコンパクトに納められ、そのデザインも含めて面白いシリーズです。

釈徹宗さんの本も年末に出版されましたが未読のため、こちらの本を選びました。

分断よりも「はみだし」のある社会でありますよう。

室橋裕和「日本の異国」(晶文社)

ときに画一的といわれる日本の都市にも、それぞれの特徴があり、それぞれの日常があります。

インド、ミャンマー、バングラデシュ…。

さまざまな理由で日本を訪れ、定住した人々が織りなす都市の様相を描き出します。

辺境探検家の高野秀行さんが帯文を寄せるとおり、「ディープなアジアは日本にあった」。ステイホームで異文化を感じられる一冊です。

食文化という観点でリンクする「発酵文化人類学」も刺激的な一冊。

6 産業

北島勲「手紙社のイベントのつくり方」(美術出版社)

多くの大規模イベントが中止となった2020年、いち早くオンラインで新たな試みをはじめた手紙社の北島勲さんの著作です。

オンラインイベントやセミナーも普及が進みましたが、現実のイベント体験との差はまだまだ大きく、これからの進化が気になるところです。

7 芸術

雪朱里「時代をひらく書体をつくる。」(グラフィック社)

フォントは印刷の一分類と考えれば芸術に入るのでしょうか。

もちろん、本づくり・ものづくりは産業とも密接に関わります。

現在のようなデジタルフォントが普及するまえ、活版印刷や写植(写真植字)の時代から文字に携わってきた橋本和夫さんのインタビューをまとめたもの。

技術や社会が変わるとともに、フォントもまた変わっていきます。

今年は〈凪の渡し場〉であまり紹介できませんでしたが、フォントに関する新刊はまだまだ他にもあります。

2 歴史

シャロン・バーチュ・マグレイン「異端の統計学 ベイズ」(草思社)

ここで2に戻りましょう。

といいつつ、一般的な歴史ではなく、ひとつの技術に焦点を当てたり、科学史を経糸にした本がさいきんのお気に入りです。

人工知能の分野などでも注目されているベイズ統計は当初、多くの科学者から異端視され、むしろ学界より産業界で利用がひろがっていったといいます。

これもまた、越境する科学のひとつ。

4 自然科学

加藤文元「宇宙と宇宙をつなぐ数学」(KADOKAWA)

数学は自然科学とは別の学問ですが、ここは10進分類に従います。

数学界の難問のひとつとされるABC予想を解決に導いた、望月新一教授による〈宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論〉。「未来から来た論文」とも言われるその斬新な発想を、望月産と親交のあった著者が丁寧に解説します。

元になったのが川上量生さんにより企画されたニコニコ動画の講演というのもユニークです。

科学・数学の本といえば、2020年のノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズの業績を解説する「ペンローズのねじれた四次元」も面白いです。

9 文学

三島芳治「児玉まりあ文学集成」(リイド社)

いよいよ最後の9です。まずはタイトルに〈文学集成〉を冠したこちらのマンガから。

結城浩さんの「数学ガール」に対比すれば、こちらは言わば文学少女。

詩のように改行の多い話し方をする文学的な少女・児玉さんと笛田くん、ふたりだけの「文学部」の活動。

一話ごとに紹介される参考文献も楽しみです。

〈男子が好きなやつ〉として紹介されていた「未来のイヴ」が気になったので読んでみたところ、あのエジソンがアンドロイド(※携帯電話ではない)を発明していたというおどろきのSF小説でした。
男子、好きですよね。

「真鍋博の世界」(PIE)

SFといえば秋に開催された真鍋博展の図録は外せません。

少し感染が落ち着いた時期で、あこがれの筒井康隆さんの講演を聴けたことも幸せでした。

河野裕子・永田和宏「たとへば君 四十年の恋歌」(文藝春秋)

ふたたび永田和宏さんです。乳癌により逝去された妻の河野裕子さんと学生時代から交しあった短歌を収録した歌集・エッセイ集。

四十年という時間をともに過ごす存在がいるということは、いまのわたし想像を超え、つむがれる歌は胸を打ちます。

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫つて行つては呉れぬか

河野裕子 – 「たとへば君 四十年の恋歌」(文藝春秋)第一章より

一日が過ぎれば一日減つてゆく君との時間 もうすぐ夏至だ

永田和宏 – 「たとへば君 四十年の恋歌」(文藝春秋)第六章より

穂村弘「あの人と短歌」(NHK出版)

最後は、歌人・穂村弘さんが各界の短歌が好きな〈あの人〉と語り合う対談集。

昨年「北村薫のうた合わせ百人一首」を紹介した北村薫さんはもちろん、ブックデザイナーの名久井直子さん、翻訳家の金原瑞人さんなど、さまざまな分野との〈越境〉が楽しめます。

対談集を読むと、対談相手の著作にも興味がわき、読みたい本が増えてしまうのが困った(?)ところ。
いわば対談集一冊のなかに読書マップが織りこまれているようなものです。

それでいくと、この本では対談相手はもちろん、穂村さんとの間で話題に上る詩歌までも気になって、マップは三次元的にひろがります。

そしてまた、次の本との出逢いが待っているのです。


〈本を読む〉という日常がある幸せに感謝しつつ、2021年も、良い本を。

2019年、視点がひろがる15冊

令和時代をむかえた2019年も残りわずかです。

年をとると、季節の移ろいがあっという間に感じる人は多いでしょう。

その理由のひとつに、こどもは毎日が新しい経験ばかりだから時間感覚が長く、おとなになると同じことの繰り返しがふえてくるので短く感じるという説があるそうです。

それでいうと、ことしは個人的に新しいことや、いままで苦手だったことにも取り組んだ一年で、比較的長く感じました。

「平成31年」と「令和元年」二年ぶんを生きたような気分にもなります。

長く感じたぶん、読んだ本もいろんなジャンルにまたがっていて、毎年恒例の〈今年読んで面白かった本〉を選ぶのに苦労しました。

ちなみに去年までの記事はこちら。

どんどん冊数が増えていくのも考えものなので、ことしは小説は除いて〈視点がひろがる〉という三つのテーマで五冊ずつ選んでみました。

では、さっそくご紹介しましょう。

 

〈多様な生き方を考える5冊〉

若松英輔「悲しみの秘義」

若松さんの文章には新しい時代を生きるヒントに – 学びのきほんで紹介した「考える教室」ではじめて触れました。一度読んだだけでは汲みきれない、きらめきを感じる言葉たちが、読者の心に寄りそうようです。

 

平川克美「21世紀の楕円幻想論」

本を選ぶときは、自分の考えに近いものだけでなく、ときには相反するようなものも手にとるよう心がけています。

対立する円と円が、たがいに反発しあうだけではなく、ふたつの中心をもった楕円のようになることで、世界はひろがっていく…そんな〈楕円幻想論〉のイメージが心にのこります。

考えすぎる人生への処方箋 – 思わず考えちゃうで紹介した絵本作家・ヨシタケシンスケさんの自作解説や、創作の秘密にせまる一冊。

人生の目標は「おこられないこと」というのに思わず大きくうなずいてしまいました。いろんな人がいる世界だからこそ、おこられないことは大事ですよね。

 

ジェリー・ダシェ/マドモアゼル・カロリーヌ「見えない違い」

違いを認める生き方へ – 見えない違い 私はアスペルガーでご紹介。人付き合いが苦手、騒がしいのが嫌いなヒロインに共感する人も、そうでない人も。

 

細川貂々「生きづらいでしたか?」

他人の気持ちを察しすぎてしまうときの、「受けとめて棚にあげる」考え方でご紹介。生きづらい人たちが集う〈当事者研究〉が気になります。自分のネガティブさも大事にしていきましょう。

 

〈学術の視点で世界を見る5冊〉

広瀬浩二郎「目に見えない世界を歩く」

国立民族学博物館に勤める全盲の文化人類学者・広瀬さんが案内する、目の見えないひとの世界。

この記事の写真は、その国立民族学博物館のインフォメーションゾーンの展示から。ことばを音にしたり、さわって感じたり。世界は〈見える人〉が思っているよりずっと広い。

 

瀧澤美奈子「150年前の科学誌『NATURE』には何が書かれていたのか」

世界一の学術誌「Nature」が創刊された150年前は、科学者(Scientist)という言葉はありませんでした。

当時を生きた西洋人による、現代の最先端科学につながる研究から、開国直後の日本を紹介した記事など、その多彩さに驚かされます。

 

石田五郎「天文台日記」

星を見るひとの静謐な世界 – 天文台日記で紹介。光が一年間かかって届く距離をあらわす光年という単位は、天文学の世界では、ほんの小さなものにすぎません。そんな天文学に人生を捧げた著者の記録が、美しい文章でつづられます。

 

斉藤光政「戦後最大の偽書事件『東日流外三郡誌』」

偽書というのは、どうしてこんなにも人の心をつかんでしまうのでしょうか。公的に歴史書として扱われた文書が、実はまったくのデタラメではないかという疑いが持ち上がる…。地方紙記者が、偽書に翻弄されたまちと人々を追う一冊。

 

秋田麻早子「絵を見る技術」

美術館や教科書で、なんとなく眺めていた名作とされる絵には、実は共通した構造があり、正しい見方があるといいます。

この本を読むと、いますぐ美術館に行って、答え合わせのように名画を読み説きたくなります。

 

〈本の世界の奥深さを覗く5冊〉

鳥海修/高岡昌生/美篶堂/永岡綾「本をつくる」

〈本をつくる人〉とひとくちに言っても、そこには製本をする人、活版印刷をする人、そのまたフォントをつくる人など、多くのプロフェッショナルが存在します。モノとしての価値を高める本づくりの過程を描く本です。

 

堀井憲一郎「文庫本は何冊積んだら倒れるか」

ノーベル文学賞受賞者はどれくらい長生きなのか、小説の最初と最後の一文をつなげてみたら…。いままでにない方向から本を楽しむ著者の心意気が伝わります。たぶん。

 

坂根敏夫「新・遊びの博物誌」

仕掛け絵本・さかさま文字など、古今東西の変わった本やおもちゃなどが次々に紹介される、古い本ですが時代を超えて楽しめます。

 

「北村薫のうた合わせ百人一首」

北村薫さんという現代の読み巧者によって、短歌という世界への扉が開かれます。ひとつのテーマにそって二首ずつ五十編、合計百人の歌が集う。

来年はもっと短歌を読みたい、そして詠みたいと思います。

 

BRUTUS特別編集「合本 危険な読書」

最後は本当に危険な一冊。最も危険な作家・筒井康隆インタビューを目当てに買ったのですが、このムックだけで読みたい本が何十冊も増えてしまいます。

 

それでは来年も、良い本を。

2018年、世界の見方を変える18冊

「平成最後」という言葉が飛び交う年末です。

12/22に公開した記事で「年内に二、三回更新するのを目標」と書いておきながら、そのあと一記事しか更新できないまま大晦日を迎えてしまいました。

目標達成のためだけに、平成最後の大晦日に埋め草記事を公開するのも気が引けるので(笑)、ふりかえり的な内容が続いてしまいますが、2018年に読んだ印象的な本を紹介します。

ちなみに、このブログ「凪の渡し場」を開設した2016(平成28)年のクリスマスにも、同様の記事を公開しています。

2016年、文章とものがたりをあじわう10冊

このときは小説とノンフィクションが対象でしたが、今年はマンガも含め、西暦と合わせて18冊を選んでみました。

〈ノンフィクション〉

菅俊一「観察の練習」

知ること、見ること、考えること – 観察の練習で紹介したとおり、日常を新しい視点で見つめる、観察の習得方法を学ぶ本です。

 

笹原和俊「フェイクニュースを科学する」

Twitterでは、デマが事実より早く拡散するとよく言われますが、その理由をSNS特有の仕組みから解明しています。似た傾向の人をフォローする仕組みが「見たいものだけ見る」という思考のクセを助長してしまいます。

自分の世界の見方がまわりに影響されて歪んでいないか? は、常に自覚したいところです。

 

岩楯幸雄「幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!」
井上理津子・安村正也「夢の猫本屋ができるまで」
三品輝起「すべての雑貨」

東京で40年間「幸福書房」という本屋さんを経営してきた岩楯さん、好きなものの掛け算で夢を叶えた安村さん、そして西荻窪で雑貨店「FALL」を営みながら〈雑貨化する世界〉に思いをはせる三品さん。

本屋や雑貨屋という小さな宇宙を経営する人の言葉は、いつも胸に響くものがあります。

 

「旅する本の雑誌」

これは危険な本です。全国各地の魅力的なまちと、それにまつわる本や本屋さんを紹介する章や、東京の個性的なお店をめぐる章など。

同時期に発売された「全国 旅をしてでも行きたい街の本屋さん」と、この本を両手に、またいつでも旅に出たくなってしまいます。

 

藻谷浩介「世界まちかど地政学」

「里山資本主義」の著者、藻谷さんが以前から趣味で訪れていた世界各地の様子をレポートする毎日新聞のWebサイト連載を再構成したもの。世界には、こんな暮らしや街並みがあるのか、という新鮮な驚きであふれています。

 

松樟太郎「究極の文字を求めて」

そんな世界には、さまざまな文明・文化が興廃し、あまたの文字が作られ続けてきました。

顔文字のようなマヤ文字、視力検査のようなミャンマー文字など、自由な発想で文字を楽しむ一冊です。自由すぎて怒られないか? と心配になるくらい(笑)

 

ベン・ブラット「数字が明かす小説の秘密」

小説のなかで使われる典型的な表現、ベストセラーや歴史に残る作品に共通する傾向など、数字と統計で小説の神秘にメスを入れます。取り上げられているのが欧米の作品ばかりなので、日本の小説はどうなのだろうと興味がわきます。

 

〈小説〉

獅子文六「コーヒーと恋愛」

日本のお茶の間にテレビが普及し始めた時代。コーヒー好きの人気ドラマ女優と、彼女の回りのコーヒー通と演劇人、TV業界人たちが巻き起こす、それぞれの情熱と愛情のかたち。
描かれた時代は古くても、登場する多様な恋愛観、結婚のかたちは今に通じるものがあって面白いです。

 

佐藤亜紀「戦争の法」

1975年、日本国から独立を宣言したN県で、主人公は戦争の渦に巻き込まれ、あるいは自ら戦地へと進んでいく。

九州限定で復刊(他の地域は一部書店でのみ販売)という珍しい形態が気になって手に取りましたが、思索的な文章が癖になります。

 

宮下奈都「羊と鋼の森」

ピアノ調律師を目指した少年と、ピアニストを目指す姉妹を中心に、憧れを現実にするための厳しく優しい道程が描かれます。

作中で引用される「夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」という原民喜の言葉は、わたしの理想とするところでもあります。

 

田中啓文「アケルダマ」

キリストの墓が隠されているという田舎の村に引っ越してきた女子高生と、彼女の東京での同級生だったオカルトマニアの男子が、千年に一度の壮大な陰謀に巻き込まれていく。

オカルトはノンフィクションだとちょっと困りますが、小説として描かれれば、こんなに面白い。

 

似鳥鶏「叙述トリック短編集」

叙述トリックとは、普通のミステリーのように犯人が探偵に仕掛けるものではなく、作者が読者に仕掛けるもの。

だからこそ普通は読み終わるまで叙述トリックがあることは秘密にされるのですが、最初から公言してしまうという、ひねりのある作風の著者ならではの企みに満ちた短編集です。石黒正数さんが描く表紙とオビの仕掛けも楽しい。

 

〈マンガ〉

細川貂々「日帰り旅行は電車に乗って」

半歩踏み出す、ものがたり旅で紹介。何度でも行きたい関西が、そこにあります。

 

益田ミリ「泣き虫チエ子さん」

ささやかだけれど、幸せな夫婦の日常。心が弱っているときに読むと思わず泣きそうになってしまって、こういう幸せがほしかったんだなあと思ってしまいます。

 

小川麻衣子「ひとりぼっちの地球侵略」

宇宙から地球を侵略するためにやってきた少女と、その心臓を受け取った少年。全15巻完結。

ボーイミーツガールのときめきが消えることはありません。

 

小林銅蟲「寿司 虚空編」

数学の世界には、日常生活ではまず目にかかることのない「巨大数」という概念があります。

ただひたすら桁数の大きさを追い求める、世界の深淵を垣間見れます。

 

今までの世界の見方を変えてくれそうな、個性的な本を中心に選んでみました。

来年もそれまでの視点を変えるような、良い本に出会えますように。

2016年、文章とものがたりをあじわう10冊

年末ということで、さまざまなところで、この一年に読んだ本、見た映画などを取り上げる企画があります。

まだ知らない新たな作品に出会えるきっかけになるだけでなく、取り上げた作品によって、その人ならではの視点をあらためて知る機会にもなります。

 

ということで今回は、わたしにとってここちよいと感じる文章、その表現からものがたりを感じることのできる本を紹介します。

対象は、2016年に読んだ小説とノンフィクション。マンガはまた別の記事で取り上げます。数を絞りたかったのと、買っただけでまだ読んでいない作品があるので(笑)。

 

北村薫「八月の六日間」

北村薫の創作表現講義でも紹介したとおり、文章が好きな作家の代表格。

雑誌の副編集長をしている「わたし」が、山登りを趣味としてはじめる。山に登るにも本を手放せないというのが、実に北村作品ならではのキャラクター。

 

吉田篤弘「木挽町月光夜咄」

こちらも文章が好きな吉田篤弘さん。クラフト・エヴィング商會のおひとりでもあります。

小説なのか、エッセイなのか、現実と空想がふしぎに入り混じる、どこかにありそうなまちのお話。

 

西村佳哲「自分をいかして生きる」

同じく、ちくま文庫から。

自分だけの生き方、働き方を考える – 自分をいかして生きる で紹介したとおり、人生について、仕事についてとらえ直すきっかけを与えてくれます。

 

姜尚中「逆境からの仕事学」

もう一冊、今年感銘を受けた仕事論。

姜尚中さんも、その語り口、文章がとても好きな方です。ご自身の経験をもとに、人はなぜ働くのか、これからの働き方について語られています。
旧約聖書から引用された「すべてのわざには時がある」ということばに、わたしもうなずくばかり。

 

相沢沙呼「小説の神様」

小説家もまた、仕事のひとつ。学生作家としてデビューしながら本が売れずに苦しむ主人公が、とあるきっかけで出会ったベストセラー作家。

読んでいて辛くなる部分もありますが、それも、ものがたりと向き合う人の宿命。

 

西尾維新「人類最強の純愛」

学生のうちにデビューした作家といえば西尾維新さん。

わたしと同年代ということもあり、ほとんどの作品を読んでいて、その文体には大きな影響を受けています。

メフィスト賞受賞のデビュー作「クビキリサイクル」から登場する人類最強の請負人・哀川潤。彼女の出てくる新作を読むと、変わらぬ旧友に再会したような、なつかしさをおぼえます。

 

森博嗣「魔法の色を知っているか?」

そのメフィスト賞の歴史は、森博嗣さんの「すべてがFになる」からはじまりました。(正確な事情に触れると、ややこしいので割愛)

講談社タイガで昨年からはじまったWシリーズは、「すべてがFになる」の世界観を底流とした、はるか未来のものがたり。

一作だけ読むのではなく、シリーズを読み続けることで、思いもかけないつながりが見えてきます。

 

辻村美月「島はぼくらと」

同じくメフィスト賞作家の辻村深月さん。

瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、作者が瀬戸内の島めぐりをしたことで生まれたというものがたり。

島に暮らす高校生たちのお話としても、そして島に縁をもった大人たちの仕事についてのお話としても読める、今年読んだ小説の中では最高峰。

 

港千尋「文字の母たち」

瀬戸内国際芸術祭と並び2016年に開催された芸術祭、あいちトリエンナーレ

その芸術監督を務めた港千尋さんによる、活字をめぐるものがたり。

大愛知なるへそ新聞社の編集部でも何度かお見かけしつつ、気後れしてあまりお話できなかったのですが、なにげないものやまちの風景からきおくをよびさます、港監督の文章がわたしは大好きなのです。

 

松村大輔「まちの文字図鑑 よきかな ひらがな」

最後はやっぱり文字の話になったので、締めはこの本しかありません。
京都のイベントでは、いまでも忘れない、楽しい時間を過ごさせていただきました。

まちなかで見かける看板のひらがな。

その一文字一文字を切り取ることで、なぜかいっそう、裏側にひそむものがたりへの想像をかきたてられます。

 

わたしなりの10冊で、この一年間をものがたってみました。

来年も良きものがたりに出会える年になりますよう。