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文字遣い/探索士 ——夕霧に包まれ消えゆく島の名を知る術も無し凪の私は

あつめる、わける、みえてくる – ゆるパイ図鑑

旅行が好きで、全国各地に出かけています。

そのさきざきで、お土産売り場やスーパーのお菓子売り場をのぞくと、なんとなく別の土地で見かけたようなお菓子があることに気づきます。

普通だと、その程度の認識ですぐ忘れてしまうところ、深く深く探索していく人がいます。

そしてついには、図鑑として一冊の本にまとめてしまったのがこちら。

 

 

発端は、言わずと知れた浜松名菓・春華堂のうなぎパイ。
うなぎパイ|お菓子|浜松のお菓子処 春華堂

「夜のお菓子」というキャッチコピーで一躍有名になったこのお菓子にあやかってか、いま、日本全国でご当地ゆるキャラならぬ、ご当地ゆるパイが増殖しているといいます。

この本では書名の通り、それらのパイを素材や形状で分類し、図鑑形式で紹介しています。

 

たとえば、あなご、どじょうといった特産の魚介類を練り込んだパイ。

あるいは、りんご、みかんなどのフルーツ系。

果ては、宇都宮餃子パイ、名古屋のきしめんパイ、広島風お好み焼きパイなど…。

なぜそこまでの情熱を傾けて、名産品をパイにしようとするのか、と思ってしまう品々。

 

形状の分類からも見えてくることがあります。

元祖うなぎパイをロールモデルとする長形パイ。

うなぎパイはウナギの形に似せているから長いことに違和感はありませんが、しじみパイ、りんごパイなどは、ほんらい長形にする必然性はありません。

葉っぱの形のリーフパイ、おまんじゅうのような包み形など、他の形状のパイと並べてみることで、うなぎパイに引きずられて長形になってしまったのでは…と推測できます。

 

かつて、無数の植物や動物の形態を観察し、比較し、分類することで、博物学や本草学といった学問体系がつくりあげられていったように。

現代にあふれる商品の中からでも、なにかに注目して、みわけることで、新たな発見があります。

 

これもきっと、路上観察、文字観察と同じように、現代の考現学のひとつ。

 

ちなみに、この類の本が、なぜか別々の出版社から同じ新書サイズで出ているので、購入しては同じ本棚に並べて揃えています。

いつか、こういった本だけの図鑑を作ってみたくなります。

 

読書の秋、フォントの秋。文字を特集した雑誌を読みくらべ

つゆしもの秋。旅行のお供にも、嵐の夜にも、本さえあれば心落ち着くもの。そして、その本と切っても切れない関係にあるのが文字。

この秋には、嬉しいことに文字を特集した雑誌が何冊も発売されているので、一冊ずつ読み比べ、特色をまとめてみました。

 

まずは、誠文堂新光社から発行されている「デザインノート」。表紙のシンプルなデザインが美しい。

 

巻頭インタビューは字游工房の鳥海修さん。著書「文字を作る仕事」で語られた「水のような、空気のような」フォントへの想いは、こちらでも伝わってきます。

文字づくりを「素材づくり」と表現する鳥海さん。

その素材がどのような性格をもっていて、どのように料理すれば味を活かすことができるか。

文字を使う(遣う)側としては、それを考えることが大事だという学びを得られます。

 

2冊目は、マイナビ出版の「+DESIGNING」。
表紙の「実践文字組み講座」は見紛いようも無い、フォントワークスの筑紫Bオールド明朝。

 

こちらの巻頭はタイププロジェクト

凪の渡し場ではまだ紹介していませんが、雑誌の専用フォントからはじまった AXIS Font や、名古屋をイメージした「金シャチフォント」といった都市フォントなど、ユニークな取り組みをされている会社です。

 

この雑誌は、パソコンでフォントを扱う際の基本的な知識・技術がまとめられていて、実践という名前にふさわしい内容になっています。

とくにデザイナー以外にも役立つのが「OFFICEアプリのデザイン&レイアウト」。

WindowsやmacOSの標準フォント解説から、PowerPointやKeynoteなどでの読みやすく相手に伝わるプレゼン資料の作り方まで。

フォントの知識を、ビジネスの現場で活かすコツがまとめられています。

付録は「MORISAWA PASSPORT FONT MAP 2016」という、MORISAWA PASSPORTで使えるフォントを一覧にした小冊子。

 

そして、3冊目は月刊NdN。

(2016/10/16、雑誌の入手後に記載を修正しました)

昨年も同じテーマ「絶対フォント感を身につける」の特集があったり、たびたび漫画やアニメのタイポグラフィ演出について特集されている雑誌なので、その品質は折り紙つき。

ちなみに、この3冊の仲では唯一の右開き(記事がすべて横書き)の雑誌です。

 

絶対フォント感とは…。

文字を目にしたら、それがなんのフォントかを即座に見分けられる能力のこと。

絶対フォント感を鍛えるiPhone・Androidアプリもあります。

絶対フォント感

こちらの付録は「絶対フォント感を身につけるためのフォント見本帳 2016」。

2015年版の付録も、気になるフォントを見つけたときにすぐ調べられて非常に役立っています。

各社からリリースされているフォントがほぼ網羅されているので、正直なところ、この用途ではMORISAWA PASSPORT FONT MAPより便利ですね。

去年より16ページ増量してグレードアップ、掲載されるフォントは665種。

 

本誌も、絶対フォント感を身につけるための基礎知識から、実践編としてディテールの見分け方まで細かく解説。

本誌のインタビュー記事は、書体史研究家の小宮山博史さん。

さらに、全国の駅など鉄道にまつわる文字に注目したウェブマガジン「もじ急行」による「もじ鉄のススメ!」など、他にない独自の視点での記事が多くあります。

 

秋の夜長。本だけでなく、文字も存分に味わってみましょう。

 

ひとりぼっちのパーティ戦略

パーティ、あるいは飲み会、歓迎会、懇親会…。

このような大勢の人が集まる場に苦手意識を感じる、という内向型の人は多いでしょう。

とくに、知らない人が多くいるところでは、なかなか会話の輪に入っていきづらいもの。

気がつくとひとりぼっちになっていて、気まずい時間を過ごす…そんなことがわたしもよくありました。

 

ではどうすればいいのか…その具体的な行動はいろいろあるのですが、それより前に大切にしたい考え方、いいかえるなら戦略があります。

 

それは、

大勢の人がいる場所だからといって必ずしも大勢の人と仲良くなる必要はない、

ということ。

 

あまりみんなと話せなかった…と落ち込むのではなく。

だれかひとりでも、気の合う人をみつけることができたら、もうその飲み会は自分にとっては成功と思いましょう。

 

木を見て森を見ず」ということわざがありますが、視点を変えれば、森を見ないのはけっして悪いことばかりではありません。

森=大勢の人がいる、と意識することで緊張してしまうのなら、いっそ視野を狭めてみるのもひとつの手です。

 

たとえば、具体的な行動の例として、まず知り合いから声をかける、というものがあります。

そうして、その人の知り合いを紹介してもらう、という形で友達の輪を広げていくのが狙い。

応用として、知り合いがいない場合は主催者やスタッフに声をかける、というテクニックも。

これも、誰に話しかけていいかわからない場合に、木を見定めるための戦術と解釈できます。

 

もしも、新しい知り合いができなくても、すでに知っている人と仲を深められたのなら、それはそれで実のあること。

自分に合ったスピードで、パーティを楽しみましょう。

 

あたらしい時代のまじめなフォント – 凸版文久体

今回ご紹介するフォントは、凸版文久体。
凸版印刷 | 凸版文久体

その名の通り、凸版印刷の活字「凸版書体」からつくられたフォント。

しかし、むかしの活字をそのまま復刻しただけではありません。

紙の上だけでなく、デジタルで文章を読むことも多くなったいまの時代に合わせて、より見やすく読みやすいフォントとしてデザインしなおされています。

 

凸版文久体は、大きく明朝体とゴシック体に分かれますが、どちらも他のフォントと異なる大きな特徴があります。

そのひとつが、ペン字のようなひらがな。

「そ」や「さ」などの文字に、つながっていない部分があり、すっきりと読みやすい印象を受けます。

 

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さらにゴシック体には、いまの時代だからこその工夫が。

よく見ると、文字のはじまりのでっぱりが、左側についています。

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他のゴシック体だと、右にあるか、でっぱり自体がないのが普通。

これは、横書きにしたときに、自然な文字の流れがうまれるようにという考えからだそうです。

 

でっぱりが左にある…というので、思い出したのはこちら。

ポンジュース ラベルデザインについて|えひめ飲料

「愛媛のまじめなジュース」こと、えひめ飲料のポンジュースのロゴタイプ。

ホームページを見ると、少なくとも1998年のペットボトル発売時から同じロゴが使われているようなので、ポンジュースは時代を先取りしていたと言えるかもしれません。

ちょっと凸版文久ゴシックと、ヒラギノ角ゴシックで組んでみました。

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オリジナルのロゴとはまた印象が違いますが、なんとなくヒラギノよりも文久くんのほうがまじめな子に見えてこないでしょうか。

 

凸版文久体は、2016年9月にリリースされた macOS Sierra で追加インストールされるようになるので、Macユーザーの方はぜひお試しください。

まだアップグレードしていない場合も、ブラウザ版の iCloud Keynote でも使うことができるようです。

 

ブログの記事タイトルに魂をこめる – わたしがハイフンを使う理由

ブログとTwitterの大きな違い。それは、タイトルがあるかないか。

比較的長い文章を書くことになるブログでは、記事の内容を的確に表すためにタイトルが欠かせません。

 

わたしの場合、ある程度書きたい内容を頭の中でまとめたら、実際に文章を書く前に、記事タイトルを先に考えます。

これは、好きな作家のひとりである森博嗣さんの創作法に習ったもの。

 

タイトルを先に決めることで、書くべきテーマが明確に定まり、途中で迷うことがなくなります。

ついつい書きすぎてしまった場合も、読み直してタイトルにそぐわない内容なら思いきって割愛する、という判断材料にもなります。

この手法はブログに限らず、エッセイ・小論文・プレゼン資料・メルマガなど、さまざまなものに応用できます。

 

そして、どれだけ読み手の興味をひきつけるタイトルを考えられるかが、書き手の腕のみせどころ。

「凪の渡し場」の理想とするところは、タイトルを見ただけでも、なんだか楽しそうと思わせる、いい意味で気の張らない雰囲気が伝わること。

それと同時に、ちゃんと内容を伝えられるようにしたいので、本やイベントに関する記事ではハイフン(-)や読点(、)を多用します。

まず、対象となることがらについて自分の視点で表し、それと明確に分けて、対象の正式名称を記載するというスタイル。

文字と路上観察が出逢う夜 – よきかな商店街

水のような、空気のようなフォントを世の中に生み出す人がいる – 文字を作る仕事

 

ちなみに、フォントによっては見分けがつきにくいときもありますが、ハイフン(-)とダッシュ(—)や長音(ー)はそれぞれ違う文字なので、気をつけましょう。

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ところで、更新した記事をTwitterなどに流すときのコツとして、タイトルだけではなく、読んでほしいポイントを伝えるようにしたほうがいい、というものがあります。

そのメリットは認めつつも、個人的には、自分のサイトの記事ならタイトルだけで充分なのでは、と思うタイプです。

Twitterのように文字数制限のあるメディアに発信するなら、できるかぎり表現を研ぎ澄まし、シンプルにしたい。

もともと、Twitter以外からブログを訪れた方のために過不足ないタイトルを考えているので、あえて説明を加える必要はないと思っています。

 

ただし、他人のブログであれば、また別の話。

タイトルで書き手が伝えたいと思ったポイントと違うところで共感したり、自分なりの視点でとらえることもあるでしょうから、それを表明することで、ひとつの記事が多面的なひろがりをもっていきます。

 

本にたとえれば、カバーにかけられる帯のキャッチコピーを考えるとわかりやすいでしょう。

基本的には、帯のキャッチコピーは著者自身ではなく、編集者が考えたり、他の作家などが推薦文として寄せたりするもの。

自分が帯を考えるよりは、まずはタイトルで勝負したいところです。