ひとをまねく、ねこのまち – 常滑まちあるき

名古屋から、名鉄特急で30分。

中部国際空港セントレアを臨む、伊勢湾に面したまち、常滑(とこなめ)。

常滑焼や、招き猫の生産で有名ということは知っていながら、なかなか訪れる機会がなかったこのまちに、今回は足を運んできました。

そこは想像以上に、招き猫と驚きのあふれるまちでした。

 

まずは、名鉄常滑駅から東へ。

坂の下に、ずらりと常滑焼のモニュメントが並んだ「とこなめ招き猫通り」。

ひとつひとつ、違ったご利益のある招き猫だそうです。

プレートを見ながら歩くのはもちろん、見ずに御利益を想像するのも楽しい。

こちらは「晴天祈願」だそうで。晴れてほしい日に、お守りとしてスマートフォンの待ち受けにしたい(笑)。

 

そのまま歩くと、陶磁器会館の建物が見えてきます。

中で、常滑焼やお土産を買うことができます。となりには喫茶店も。

 

ここから坂をのぼった先は、工房やギャラリーが立ち並ぶ「やきもの散歩道」として整備されています。

名古屋芸大の常滑工房、という看板がちょっと気になりましたが、中に入れるのかは不明。

 

路地の風景は、香川の小豆島にある「迷路のまち」にもちょっと似ています。

似ているようで違うのは、こちらにはそこかしこに招き猫がいること。

招き猫と「あとしまつ」立て看板の共演でテンションが上がるのは、わたしだけかもしれません。

お手製の「あとしまつ」看板も。

おや、この猫型ピクトさん(ピクトニャン)は…?

 

出ました!

日本各地の珍風景を集大成した雑誌「ワンダーJAPAN」の表紙を飾ったこともある、巨大招き猫「とこにゃん」。

 

実物を見ると、その存在感に圧倒されます。

あれ、手前に猫がいる…? と思ったら、よく見ると、これも作り物。

 

やきもの散歩道を普通に散策するだけでも楽しいですが、「凪の渡し場」的にはもちろん、まちの魅力は、それだけではありません。

地元民にはおなじみ「とこなめ競艇」(現・ボートレース常滑)の真っ白になった看板。

 

旧常滑市役所の建物を活用しているらしい、中央商店街の事務所。

この路地にも、招き猫のやきものがあちこちにあります。

 

もちろん、良い文字もたくさんあるので、タイポさんぽにもうってつけ。

新しい建物ですが、流れる水のロゴがかわいい、アグリス(JAあいち知多)

 

そんなふうにまちあるきを楽しんでいると、あっという間に日が暮れてゆきました。

これだけの招き猫のあるまち。人も招かれ、福も招かれてゆくことを願ってやみません。

 

路上と動物との共存を考える – さんぽあとしまつ

まちあるきをしていると、路上のあらゆるものが観察の対象になります。

 

たとえば、お店の看板や貼り紙の文字に目を向けたタイポさんぽ

たとえば、一般にカラーコーンという商標で知られるパイロン

 

そして最近、ひそかに気になっているものがあります。

 

それは、犬などのペットを散歩させる飼い主に向けて書かれた注意書きの立て看板。

すでに決まった呼び方があるのかもしれませんが、わたしは仮に「あとしまつ」系とよんでいます。

今回は、ペットも連れずに、立て看板だけを目当てとした「あとしまつ」散歩を楽しんでみましょう。

 

まずは、文字通り、ペットのあとしまつを飼い主にお願いするメッセージが書かれたもの。

地方自治体の名前と、犬のキャラクターが描かれたものがよく見られます。

ふしぎなことに、同じ自治体でも、少し歩くと違う犬のキャラクターに出会うことがあって、探すのが楽しくなります。

描かれるのは犬が多いですが、たまに猫が登場することも。野良猫へのえさやり禁止を兼ねたメッセージのようです。

 

なぜか、この犬だけはあちこちで見かけます。下のふたつはフォントも同じですね。

 

ピクトグラムになった犬。ピクトさんに飼われるピクトワンでしょうか。

 

ピクトさんといえば、日本ピクトさん学会会長・内海慶一さんのイベントで岡山に行ったときに見つけた、こちらのあとしまつ。

自分であとしまつをするという、かしこい犬。

タウンボーイDSKというのが検索しても出てこなくて謎です。

 

ときには、ちょっと強い口調で怒られたり。

 

と思ったら、「ワンちゃん」とやさしく諭されたり。

 

もはや文字が消えていてもなんとなくつたわってしまいます。それこそがペットへの愛情の証かもしれません。

 

まちには人間ばかりではなく、ペットも、野良犬、野良猫だっている。

そんな人間と動物との共存についても考えさせられてしまう、まちあるきでした。

 

今回のおまけ。

しゃちほこ立ちをしつつ、目も名古屋市章の「まるはち」に。

なんとも名古屋愛にあふれた犬でした。

 

日本の駅前風景を記憶する – 八画文化会館Vol.5

日本全国に存在する、さまざまなまち。

かつて多くの人を引き寄せた観光地でありながら、少しずつ時代とずれていってしまったり、あまりにも先鋭化した方向へ突き進んでいったり。

そんなスポットを「終末観光」という視点で取り上げてきた唯一無二の雑誌が、八画文化会館。

八画文化会館 : 廃墟や珍スポットなど、日本各地の奇妙なモノを発見するインディーズ出版社、八画出版部

廃墟や珍スポットなど、日本各地の奇妙なモノを発見するインディーズ出版社、八画出版部のウェブサイト。

2016年のイベント、よきかな商店街では、編集部のお二人にお会いし、創刊号からの愛読者であることをお伝えすることができました。

そのイベントは「まちの文字図鑑 よきかな ひらがな」(大福書林)の松村大輔さんとともに、日本の商店街の風景を切り取っていくというものでした。

その後も、Twitterに次々と独自な視点でハッシュタグと写真の数々が投入されてゆきます。

二年半ぶりに刊行されたVol.5「駅前文化遺産」は、その結晶ともいえるものでしょう。

東京・大阪・名古屋のような大都市の駅はあえて外し、少し寂しさを感じる、いわゆる地方都市の駅前風景を、「文化遺産」として紹介していきます。

名古屋ではありませんが、愛知県からは、あいちトリエンナーレ2016の舞台にもなった東岡崎駅(岡ビル百貨店)なども掲載されています。

かつては屋上遊園地があり、昭和の終わりごろまで全盛期を誇った岡ビル百貨店。

いまは神社になっているという屋上には通常入れませんが、2F、3Fと階段を上がっていくことで、往時の片鱗を味わうことができます。

 

会期中はアート作品が展示されていた3F、建物隅の「キッチンこも」だけが現役営業中。

「スパゲッチ」という表記も気になります。

 

この岡ビルのように、「建設当時は地域一の高さを誇った」とまで語られながら、いまではまわりの高層マンションに後塵を拝してしまっているような中低層ビル

盆栽を中心に据えた駅前ロータリーに、謎のローカル銅像

Googleマップやスマートフォンのない時代には必須だった、名所旧跡の描かれた駅前地図

 

過疎化、老朽化というネガティブなイメージばかりではなく。

ノスタルジー、なつかしさといった過度の美化も、そこにはなく。

淡々と紹介される駅前の光景が、なぜかとても魅力的。

 

わたしもかつて、地方都市に住んでいたことがあって、まさにこの雑誌に紹介されるような駅前風景を毎日目にしていました。

そのときにはまったく気づかなかった、あるいはマイナス要素として見ていたものが、いまになって新たな意味づけが与えられたという驚きがあります。

 

もちろん、そこに暮らす住人にとっては、不便さを感じることも多い街並みであって、やがては現代的な駅前に塗り変わっていくことでしょう。

それも、まちの宿命。

 

でも、だからこそ。

 

過ぎゆく時代の記憶を、地道に記録にとどめていく、このような試みがとても貴重なものだと感じます。

 

 

 

本を手にとる誰かを待つ仕事 – 本屋、はじめました

あなたは、月に何冊本を読むでしょうか。

何回、本屋さんに通うでしょうか。

 

いまや本を買うのには、コンビニ、ネット通販、電子書籍と、さまざまな方法があります。

それでも、本屋さんで実際に本を手にとってあじわう体験は、かけがえのないもの。

そんな想いに、すこしでも共感をおぼえてもらえるなら、ぜひ手にとってほしい本があります。

 

著者は、全国チェーンの大手書店であるリブロに長く勤めた辻山良雄さん。

名古屋店時代には、地元の本屋・雑貨屋と共同で、本でまちをつなぐイベント、ブックマークナゴヤを立ち上げています。

 

ブックマークナゴヤ  BOOKMARK NAGOYA OFFICIAL WEBSITE

BOOKMARK NAGOYA(ブックマークナゴヤ)名古屋を中心に大型新刊書店や個性派書店、古書店、カフェや雑貨店などが参加。街のあちこちで本に関連したイベントやフェアを開催する、『本』で街をつなぐブックイベントブックイベントです。

わたしにとっても「本屋」というものが、お店単独ではなく街と切り離せない存在であるという視点に気づかされたイベントです。

このイベントを通して知ったお店も多く、いまも毎年開催を楽しみにしています。

 

本書は副題に「新刊書店Title開業の記録」とあるとおり、辻山さんがリブロから独立し、2016年に東京の荻窪に自分のお店をオープンするまでの経緯と、開業後の様子までが描かれます。

本屋 Title

2016年1月、東京・荻窪の八丁交差点近くにオープンした新刊書店・Title(タイトル)。1階が本屋とカフェ、2階がギャラリーです。

事業計画や営業数値といった具体的なデータも交えながら、なぜこの時代に本屋を開くのかという想いが、静かに、それでいて力強く伝わってきます。

 

本屋の仕事は「待つ」に凝縮されていると辻山さんは言います。

本屋の毎日の光景として真っ先に思い浮かぶのは、お客さまで賑わっている店頭ではなく、まだ店内に誰もいない、しんとした景色です。静まりかえっていますが、本はじっと誰かを待つようなつぶやきを発しており、そうした声に溢れています。

 

そして、そんな本に出会うために、本屋を訪れる人がいる。

 

本を読む人が減っている、街の本屋が少なくなっていると言われ続けている中、それでも本屋さんで本を買いたい人は必ずいます。

 

実際に、第1回ブックマークナゴヤが開催された十年前と比較しても、本屋さんに求められるものは変わりつつあります。

けれど、その芯にあるもの、本を誰かに届けたいという想いはずっと変わらないでしょう。

その上で、不特定多数の「みんな」ではなく、特定の人に向けて届けるため、平均的な品揃えの良さではなく、ここでしか出会えないような本を置き、その瞬間でしか体験できないイベントを開催する。

本屋に限らず、誰のために仕事をするのか、なんのために人生を生きているのか、というテーマにも通じるものがあります。

 

 

最後に、この本自体について。

奥付に、使用されたフォントや用紙の種類までが記載されていたりと、細かいところまで実に丁寧につくられています。

ちなみに表紙のタイトル(店名ではないほうの)に使われているのはフォントワークスのニューシネマA

 

さらに、カバーを外すと、本屋Titleのある荻窪の地図が現れます。

いつか、この地図に描かれたまちを実際にあるき、本屋Titleを訪れる、その日が楽しみになりました。

 

赤パイロン、青パイロン、黄パイロン – あるいはパイロン色採集

まちを歩いていると、見えていても、見えないものがあります。

まちあるきの楽しみが無限にひろがる – 街角図鑑で紹介したように、そんな見慣れたものを収集して、分類することで、新しい視点が得られます。

 

その代表と言えるのが、この本の表紙にも中心としてデザインされているパイロン

カラーコーンというなまえで呼ばれることが多いですが、これはセフテック株式会社の商標で、ほかにも各社から販売されている、というのも「街角図鑑」ではじめて知りました。

 

それからというもの、まちあるきをしていると、思わずパイロンに目が行くようになってしまいました。

そこで今回は、とりわけパイロンの豊富なカラーバリエーションという視点で楽しんでみようと思います。

この本にも寄稿されている路上園芸学会さんの言葉を借りれば、パイロン色採集。

 

 

赤パイロン

まずは、もっともオーソドックスな赤色のパイロン。

立入禁止の場所や、危険を示すために、安全色としてISOやJISで規格化されていることからも納得がいきます。

といいつつ、ここでは、周囲の風景と、ふしぎな調和を生み出しているものをご紹介しましょう。

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鯉とパイロン。

 

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路上園芸とパイロンのオセロ。

 

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雨の日のパイロン。

こんなふうに反射板のついた、しまパイロンもよく見かけます。

 

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長年の激務に耐え、後進に役割をゆずるパイロン。

 

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もはや自然に返りつつあるパイロン。枯山水の心境です。

 

青パイロン

赤があれば青もあるのが世の常。

けれど、青色はまちなかで目立ちにくいのか、なかなか見つかりませんでした。見つけた日はちょっとラッキーな気分。

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あとしまつ立て看板とパイロン。

 

黄パイロン

黄色も注意喚起の色なので、パイロンによく使われます。

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国鉄中央線の記憶をたどる – 愛岐トンネル特別公開では、たくさんの黄パイロンにも出会いました。

 

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緑パイロン

植物の色にまぎれるからか、完全に緑一色のパイロンはなかなか見かけません。

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赤いマフラーを巻かれた緑パイロン。

 

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タヌキを守るパイロン。

 

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これは黄緑パイロン?

 

金パイロン

非常にめずらしいと思われる、きんいろパイロン。屋島山上で見つけたときはおどろきました。

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黄パイロンが汚れてこうなったのかとも思いましたが、後日、名古屋市内で別のきんいろパイロンを見かけて、やはりほんとうにあったんだ! と感動を新たにしました。

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白黒パイロン

見目うるわしい、真っ白なパイロン。いまのところ、黒の重しとセットでしか見かけていません。

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文字がテープで貼られていると、ちょっと惜しい。

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そうは言いながら、文字が消されていても、それはそれで気になります。

 

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そして、超かっこいい黒パイロン! こちらも京都BALで見かけたのみ。

 

仮装パイロン

最後は番外編です。

とある年のハロウィンイベントで出会った、仮装するパイロン。

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実は藍色や紫色のパイロンがどうしても見つからず、昔の写真を探していて偶然にも再会することができました(笑)。

 

ということでパイロン色採集でした。

 

頭の中で「赤パイロン、青パイロン、黄パイロン」と唱えつつまちあるきをしてみると、やけに語呂がよくて、なんだか楽しくなってきます。

いつの日か、本物の藍パイロン、紫パイロンにも出会うことができるでしょうか。